かつてeラーニングは「通信速度が遅い」、「セキュリティのために社内PCからは使えない」、「映像や音声が不安定」という厳しい意見もありましたが、この数年でスマホとタブレットが飛躍的に普及し、かつ通信速度も安定してきたことで、eラーニング元年と言われる2000年から20年経った今日、英語学習の領域では大きな領域を占めるようになっています。
eラーニングの最大の特徴は、場所と時間を選ばないこと、そしてコストが低く抑えられる点にあります。そのため安く手軽に英語(または他の外国語)を学びたい人や、コストや運営の手間を抑えたい企業にはきわめて魅力な選択肢です。
とはいえeラーニングも万能のツールではないので、すべてのことができるわけではありません。そこで今回はeラーニングのメリットとデメリットについて触れてみたいと思います。
企業の英語教育におけるeラーニングのメリットとは?
まずeラーニングは、「知識の伝達」という領域で非常に大きな効果を発揮します。
たとえば、
これはeラーニングがコンテンツベース型の教育ツールであること、そして上記のような学習内容が「知識の解説と伝達→習得→確認→課題提出→結果評価→テスト→フィードバック」という一連の流れの中で習得しやすいためです。
逆にeラーニングは人的介在が必要となる技能、つまり身体活動を通じたトレーニング、体験型トレーニング、ディスカッション、グループ活動を通じたアクティブラーニング、「気付き」を通じた学びなどには不向きです。
そのためeラーニングの特徴を英語教育に落とし込むと以下のようなメリットが期待できます。
1. 遠隔地でも使用可能
2. 時間、時刻、回数を問わない
3. PCだけでなくスマホやタブレットで空き時間に勉強ができる
4. 欠席しても後から繰り返し視聴できる
5. 研修場所の予約や費用が不要
6. 講師費用が低く経費削減ができる
7. 進捗状況をデジタルで簡単に管理できる
下記のリストはeラーニングが利用されている学習領域ですが、上記のメリットを踏まえ、大きな効果が期待できるものを三ツ星、それほど期待できないもの(ゼロではない)を一つ星という3段階で示してみたいと思います。
1. ★★対面オンライン英会話(ネイティブ、ノンネイティブ版)
2. ★★★映像学習アプリ(文法学習)
3. ★★★語彙増強アプリ(単語学習)
4. ★★オンラインライティング添削
5. ★★検定対策(英検、TOEIC L&R, IELTS)
6. ★★リーディング力強化
7. ★ストーリー型オンライン学習(会話シチュエーションシラバス)
8. ★英語総合力学習向上
9. ★★★映画による英語学習
1の対面オンライン英会話については、入門・初級には経済的でよいと言えるでしょう。しかし中上級になるとネイティブスピーカーの講師または専門の講師が必要になるため、費用面でのメリットが失われる場合があります。また会議、ファシリテーション、プレゼンテーション、ディスカッションの練習など、グループと臨場感が必須になるトレーニングにはあまり向いていません。
2と3の知識学習型こそまさにeラーニングの出番です。隙間時間でのマイクロラーニングと繰り返し反復が可能なので文法知識の確認や語彙増強にはもってこいなのです。
4、5、6が二つ星になっているのは、「それだけでは十分機能しない」という理由があるからです。これら長期にわたり画面上で非対面型学習を続ける場合、それを管理する仕組みが必要となります。たとえば進捗を管理する管理者、チューター、アドバイザーなどが必要となります。またもっとも難しいのは「モーチベーション/やる気の維持」です。十分効果を上げるには、ともに学習する仲間が持てる仕組みを作ったり、声掛けをするアドバイザーを配備することが必須です。
7についてですが、多くの企業からCGを使ったストーリーものが提供されるようになっていますが、これも人間を介在させないため、モーチベーションの維持が難しいのと、反復を強制するとコンテンツが重くなってしまうため、会話力の定着が弱くなるという問題があります。同様に8も文法学習などはよいのですが、会話や中級レベルのリーディング(特にTOEICなどのリーディング)はインストラクターによるクラスアクティビティ運営がキーとなるため、この面での効果が薄くなりがちです。
最後になりますが、eラーニングは9の映画のオンライン学習には非常に向いています。現在PC用ソフトやスマホアプリが数多く販売されています。英語字幕の表示、語彙の説明、発音練習、聴き取りなど、手軽に一人で学習できるメリットがありますが、会話力やリーディング力向上など実習・訓練が必要になる学習に不向きなのです。
eラーニングのデメリットまとめ
eラーニングのデメリットをまとめると下記のようになります。
1. ロールプレイ、実習、訓練型の学習(筋トレ型学習)に不向き
2. 知識の習得や確認にはよいが、ロールプレイ、実習、訓練型の学習に不向き(特に会話、会議、ファシリテーション、プレゼンテーションなどは人的介在がないと筋トレにならない)
3. 内容によってはともに学習する仲間ができるようにする必要がある
4. モーチベーションややる気の維持管理のための工夫が必要
5. 進捗を管理する管理者、チューター、アドバイザーなどが必要
6. 人気のある先生の予約が大変
7. ネイティブスピーカーが講師の場合にはそれなりに費用がかかる
企業の英語研修の効果を上げるためには、eラーニングのメリット・デメリットを理解した上で適切に利用することが重要です。
著書:「異文化理解で変わる ビジネス英会話・チャット 状況・場面115」 (Z会のビジネス英語)
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