ビジネスのグローバル化とともに海外に自社の従業員を赴任させる日系企業様は今も昔もたくさんいらっしゃいます。もちろん現地化が進んで現地人への雇用切り替えが進んだり、新型コロナウイルスの流行を受けて従業員を帰国させたりされる企業様も少なくはありません。この従業員の海外赴任を行う上で、送り出す側が配慮すべきではと私が感じることを少しご紹介できればと思います。
海外赴任の目的の明確化
当たり前の話ですが、海外赴任に限らず従業員をある業務にアサインする際にはそのビジネス上の戦略があるはずです。この海外赴任期間にどのような成果を従業員にあげることを期待しているのかを、きちんと赴任者ご本人と共通認識を持つことが重要です。既に海外拠点がある場合、多くの海外拠点の現地スタッフは明確な職務内容(Job Description)が記載された雇用契約の下で仕事をしています。このようなことは日本ではあまり意識はされないですが、その赴任ミッションについては人事や上司、赴任者本人とよく意識合わせを行う必要があるでしょう。
拠点を新たに設立する場合、最初の赴任者には役所や銀行などの実務手続きにおいて多くの負荷がかかります。現地の専門家や支援企業に委託される場合であっても、必要な書類へのサインや意思決定は企業様側での対応が必要です。これらをどこまで人事部などの会社主体で実施するのか、ご本人主体で実施するのかを明確に切り分けを行うことも重要になります。手続きや作業にダブりやモレが発生して拠点設立が遅れたり、余分なコストが発生したりするなど、ビジネスに影響することも少なくありません。
また、若手社員の海外拠点での研修や社費留学などにおいては、あくまで会社の業務の一環であるということを本人にきちんと理解してもらうような動機付けが必要でしょう。
海外赴任させる時期、内示を行う時期
まず、外国に長期で滞在するにはビザ(もしくは滞在許可)が必要です。この取得手続きは国ごとに異なりますが、赴任者ご本人に用意してもらわないといけない書類も多いです。例えば、最終学歴の卒業証明書(英文もしくは現地語)、銀行口座の残高証明(英文、米ドルもしくは現地通貨建て)、英文もしくは現地語での履歴書などです。通常業務をこなしながらこれらを用意するのはかなり大変です。また、拠点設立時の赴任者のビザが下りにくかったり、手続きが煩雑になったりするケースも見られます。さらに、ご家族がいらっしゃる従業員の方は単身赴任にするのか、家族帯同の場合は引きまとめのタイミングをどうするのか、家族を引きまとめる場合はお子様の学校をどうするのかなど多くの準備が必要です。
また海外に6ヶ月以上従業員を派遣する場合は労働安全衛生法で、当該従業員の健康診断受診が雇用者の義務として義務付けられています。渡航前にA型肝炎や狂犬病などの予防接種を接種した方が望ましい国や地域もあります。それらのスケジュールを考慮すると最低でも3ヶ月は必要になり、拠点設立が伴う場合は通常とは異なる手続きも要することから、さらに数ヶ月早めの方が良いでしょう。
現地語学習の準備
また国によっては役所や銀行の担当官自身が英語を解する場合であっても、対応は現地の公用語のみで行うことが法律や規約で定められていることもあります。仮にそれらの通訳・翻訳などの手配を会社が何らの形でサポートする場合であっても、簡単な現地語の学習は行うに越したことはないと考えています。こちらについては企業様や赴任者ご本人の判断ですが、少しでも現地語ができると赴任中のストレスも軽減されますので個人的には現地語学習をお勧めします。
本当に日本から従業員を赴任させる必要があるのか
今回は従業員を海外赴任させる上で配慮すべきことについて簡単にご紹介しました。今後も海外赴任という切り口でさまざまなトピックを取り上げられればと思います。
<出展>
厚生労働省 (2009). 労働安全衛生法に基づく健康診断の概要 1.健康診断の種類. (https://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/09/dl/s0907-4i.pdf).
株式会社ジェイシーズ執行役員 シニアマーケティングコンサルタント(欧州)
大手電機メーカーにて約10年に渡り、IT営業およびグローバルビジネスをテーマとする教育企画に従事した。その後コンサルタントとして独立し、日系・外資問わず民間企業や公的機関へのコンサルティングを行っている。中でもハンズオンベースでの調査から受注までの一連のプロセスをカバーする営業・マーケティング支援や、欧州拠点の設立などのサポートを得意とする。2016年には欧州で経営学修士号(MBA)を取得し、現在はドイツを拠点に活動している。
株式会社ジェイシーズ https://j-seeds.jp/