ビジネス英語とは?
私たちは長い間ここかしこで「ビジネス英語」という表現を耳にしてきたため、そうした一つの独立した英語体系があるかのように錯覚しているかもしれませんが、「ビジネス英語」とは、あくまでビジネスシチュエーションでTPOを踏まえながら、商取引を行うための英語コミュニケーションスキルです。
日本語でも「です」と「ます」(「今日いい天気ますよ」のように)の区別がつかないような話しかたをしている人と対面した場合、果たしてこの人は取引をするのにふさわしい人なのだろうか、というように信用に疑問符がついてしまうでしょう。
英語でも同じことで、この点に関する限り、基礎文法や基本語彙は当然押さえていなければならないという意味で、学校で学ぶ英語となんら変わるものではありません。
また、日本語でも「お前、これ買え!」などという店員がいないのと同様に、英語でも商取引をする上ではかかせない表現があるのです。例えばメールの最後に記す"Best regards," や"I am writing to inform you that ..."(...という件でご連絡いたします)などがそれにあたります。
こうしたビジネス表現やフレーズは多くの書籍が出ているので、各自自分のレベルに応じて購入し、学習すれば問題ないでしょう。そうした情報は暗記すればすぐにでも使えるのですから。
ビジネス英語マスターに重要な2つのポイント
むしろ重要な点は、①ビジネスシチュエーションでスムーズなコミュニケーションをとる②文化と論理の壁を越えて相手を動かすという技術だと思います。
まず①の例ですが、例えば外部のパートナーと4対4でグループ会議をする状況を考えてみましょう。その中に久しぶりに会議で顔を合わせる相手がいた場合、私たちはどんな反応をするでしょうか?相手と目が合った後「どうも、こんにちは、ご無沙汰しています」程度の挨拶になるのが普通だと思います。シャイな人なら「あっ、どうも」で終わってしまうかもしれません。
英語の場合だと、表情豊かに"Nice to see you again, Suzuki-san. How have you been?" から始まって、ひとしきり「相手の近況に興味がある」という姿勢を見せるのが普通です。ですから「あっ、どうも」を"Ah, hi."と直訳すると、「あれ、この人冷たいな」という印象を持たれてしまいます。もしこうした状況がここかしこで重なると外国人の相手は「距離がある、何を考えているか分からない、信用してもらえてない」という不信感に陥ることも少なくありません。
もう一つ問題②は、文化的な違いに根源を発しているという点では①と同じですが、さらにハードルが高くなります。例えばこまめに報告をしない外国人部下がいるとします。日本ではホウレンソウ(報告・連絡・相談)が当たり前なのですが、異なる異文化マインドを持った人たちにとっては、必ずしも当然のことではありません。例えばアジア系エリートは「いちいち上司に報告するのは自分が無能であることの証拠」と信じている人も少なくないのです。
外国人部下との間にどのような文化の壁があるか知らなければ、その部下を論理的に説得し、動かすことはできません。できるのは日本的論理を翻訳して伝えても相手には押し付けになってしまうこともあります。こうした文化的な壁を乗り越え、論理を構築し、相手とのコミュニケーションを深化させ、相手を動かしていくという技能が現在の日本には求められているといえるでしょう。
昔も今もこれからも変わらぬ克服すべき課題
1980年代まだTOEICテストが始まったばかりのころ、一流大学卒の新卒平均スコアは400~460点程度であったように記憶しています。この頃なら新卒が600点や700点をとれば驚かれたかもしれませんが、今日では大学生でも800点を超える人がざらにいます。彼らは勉強としての英語の基礎はできており、またまだ若く記憶力もよいのでビジネス表現などもさして苦痛もなく覚えられるでしょう。しかし問題となるのは上記の2点なのです。これは文化的差異に起因しているため、私たちがビジネス英語を「本格的にマスターしよう」と思うならば、昔も、今も、これからも変わらぬ克服すべき課題となっていくと思います。
著書:「異文化理解で変わる ビジネス英会話・チャット 状況・場面115」 (Z会のビジネス英語)
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