企業の英語研修は仕事のためだけだと思われていませんか? 義務感で仕方なくやる勉強ほど、つらいものはありません。一方、その義務感から解き放たれると、急に勉強が楽しくなるものです。中高年の学びなおしブームもその一つ。英語学習も同じです。英語の力がついた人にはこんな楽しみがあるということを、社員の皆さんに知ってもらいましょう。
英語嫌いの原因:学生時代のトラウマ
英語嫌いの社員のための英語研修とその対策について考えてみたいと思います。対策を立てるには、まずは相手を知ることが大事。なぜ英語嫌いになるのでしょう。よくある理由が、学生時代からのトラウマです。早い段階から学校の科目としての英語に苦手意識を持ってしまい、そこから抜け出せないでいるために、会社で英語が必要になっても学習意欲が高まらないというわけです。
違う言語を学ぶとき、たくさんの単語や熟語を暗記し、文法も多くのことを学ばなければならず、これらの勉強は苦痛だったかもしれません。もう二度とその苦痛を味わいたくないという思いを抱いている社員の方も多いのではないでしょうか。近年は、学校でも(少なくともリスニングにおいては)会話にも重点が置かれるようになりましたが、まだまだ読み書きに比べると割かれる時間は少ないのが現状です。
英語嫌いの原因:ドキドキする怖さ
ビジネス英語では読み書き以外に会話も重視されます。英会話の勉強なら楽しくできる?必ずしもそうではないようです。趣味を兼ねた英会話の勉強であれば、精神的にも楽だと思いますが、仕事で必要に迫られて勉強するとなると、そもそもプレッシャーがまったく違います。しかしプレッシャーがかかるだけであれば、仕事のための別の勉強だって同じでしょう。英語特有の嫌いになる理由があるはずです。
思い出していただきたいのが、英語初心者の頃です。たとえば海外旅行で初めて英語で何かを注文するとき、どれほど心臓が高鳴ったことでしょう。店員との簡単なやりとりさえ、初めてのときはドキドキするものです。とはいっても、海外旅行では、身振り手振りもフル活用して、とにかく伝わればいいですし、また、伝わらなくてもたいした問題ではありません。恥じることなく堂々としていればいいのです。ところがビジネスでは、それは許されません。それだけに外国人を前にして緊張が体中に走るのも当然のことです。そのような状況から逃げ出したくて、英語嫌いになってしまうのです。
英語嫌いを克服する
英語嫌いを克服する処方箋には何があるでしょうか。上にあげた嫌いなポイントを取り除くのは難しいものです。英語学習にある程度の困難がつきまとうのは避けられません。しかし、その困難を乗り越えると何が待っているかを考えてみてください。その「ご褒美」こそが、嫌いなものを克服する原動力になるはずです。
まず、仕事の面で有利になることは間違いありません。何と言っても、ビジネス英語は仕事のためのものですから。しかしそれは社員の方々は百も承知であり、今さら強調しても新しい動機付けにはなりません。そこで、ビジネス英語の勉強は仕事にしか役に立たないのか、という点に目を向けてみます。
そもそもビジネス英語といっても、単にビジネスの場面で多く使われる言い回しや単語を多用するというだけで、ベースは普通の英語にほかなりません。ビジネス英語が上達すれば、ビジネス以外の状況で使う英語の力も必ずアップします。その場合、海外旅行でも役に立ちますし、インターネット時代ならではの楽しみ方もいろいろ出てきます。
英語ができるとこんなに楽しい
ビジネスで外国人と対面して英語でやりとりに慣れてしまえば、海外旅行先のホテル、レストラン、お店での会話など、たいしたことがないと思えるでしょう。また、きちんとしたビジネス英語の読み書きがある程度できるようになれば、インターネットに大量にある英語で書かれたホームページも怖くありません。ウェブ調査会社のW3Techsによれば、世界のホームページのおよそ60%が英語で書かれている一方で、日本語で書かれたページは2.3%しかありません*。ビジネス英語が上達すれば、日本語だけの小さな世界から、外の広大な世界に向かって飛び出す準備ができるというわけです。それだけでも「英語は嫌い」と言ってばかりはいられない気持ちになると思います。
人事の方が英語嫌いの社員の研修で困っているとき、以上のような視点からのアドバイスはいかがでしょうか。
AllAbout日常英会話ガイド
担当テーマ:日常英会話 東京都立大学 教授(理学博士)
英会話への第一歩は英会話学校通い。学部生時代には大学を休学し、米国へ語学留学。その後も米国の大学に研究員として2年間在籍。仕事の性格上、海外の研究者らとの交流も多く、コミュニケーションの道具としての英語の重要性を痛感する毎日。日本人の英会話力の欠如は、国際的な学会、研究会でも際立っていることに憂慮しており、その理由にも高い関心を持っている。