ビジネスパーソンが企業で業務をこなすためには、具体的にどのような日本語が求められるのでしょう。日本のビジネスマナーや日本⼈のコミュニケーション特性なども考えながら、普段のコミュニケーションを円滑にする表現を紹介します。
日本人社員とのコミュニケーションを円滑にする日本語とは?
日本語力が高くテストの点数はよい、でも、どこか日本人とのコミュニケーションにぎこちなさを感じさせる、あるいは、物言いがダイレクトすぎて驚かせてしまう……。本人には悪気はなくても、そんなちょっとしたコミュニケーションの取り方に違和感を持たれて周囲になじめなくなっている外国人社員はいないでしょうか。せっかく優れた能力を持っているのにコミュニケーションを円滑にする日本語表現を知らないばかりに不当な評価を受けてしまうのはもったいないこと。研修では日本人社員との日常のコミュニケーションをスムーズにするための日本語を教えることも大切です。今回はどのような表現を取り上げたらよいか、紹介しましょう。
クッション言葉
上司や同僚に用件を伝えるときや、相手の申し出を断る場合や相手に反論する場合など、いきなり本題を切り出すと、唐突な印象を与えてしまうでしょう。こういう場合、前置きとなる「クッション言葉」を使って、相手への配慮を示しながら話すこともコミュニケーションをスムーズにするためには必要です。
・話しかけるときによく使われる表現例
仕事中に話しかけるときは、相手が話しかけても大丈夫そうか、様子を見た上で、次のようなクッション言葉を使うとよいでしょう。
「お忙しいところ、すみませんが……」
「お仕事中、恐れ入りますが……」
「すみません、今、お時間よろしいですか」
・相手の申し出を断るときに使われる表現例
誘いや依頼を受け、それを断る場合、「行けません」「できません」など、ストレートに言うと、相手にはぶっきらぼうに聞こえ、印象を悪くしてしまうことがあります。クッション言葉を言うことで、印象が和らぎます。可能なら「できません」は「ご希望には沿えかねます」などの表現を使用することも取り入れたいところです。
「申し訳ないのですが……」
「あいにくですが……」
「せっかくですが……」
「残念ですが……」
・相手に反論をするときによく使われる表現例
ビジネスでは相手の主張に対して反対意見を言わなくてはならない場面もあるでしょう。その場合も、「これから反論を述べますよ」ということを示すクッション言葉から始めたほうが、相手は聞く用意ができます。さらに和らげるには、まず相手の言うことに理解を示した上で、自分の主張を言うようにすると意見が受け入れられやすくなります。
「お言葉を返すようですが……」
「◯◯さんのおっしゃることもわかるのですが、私としては~~」
「基本的には◯◯さんの意見に賛成なのですが、この部分について私は~~」
・相手に依頼するときによく使われる表現例
依頼は相手に負担をかけることでもあるので、「負担をかけてすみませんが」という意味のクッション言葉を前に置くとよいでしょう。
「お忙しいところ、申し訳ありませんが……」
「お手数をおかけしてすみませんが……」
「ご面倒をおかけいたしますが……」
敬語
ビジネス日本語の敬語で気をつけたいのは「ウチとソト」による使い分けです。社内では比較的、上下関係の緩い環境であっても、社外の人に対して「ソト」を意識した敬語が使用できないと取引先の人などから厳しい目で見られます。失礼にならないということも、スムーズなコミュニケーションには必要です。
専門用語、業界用語、略語
専門用語や業界用語、略語などは、仕事に慣れるに連れ習得も進みます。しかし、特に初期は、使用する側にとっては慣れた言葉でも、その言葉がわからないために指示が正確に伝わらなかったり、コミュニケーション不全の要因になったりする恐れがあります。よく使われる語については事前研修で周知しておくことで回避できます。
文化的な背景も知識として知っておくことが必要
明文化されているわけではないけれど、日本社会では好まれる傾向の強いふるまいがあるのも事実。それに従わなくてはならないという押し付けはいけませんが、はっきり見えない分、知識として伝えておくことで、無用な摩擦を起こしたり、不当な評価を受けたりすることを避けることも可能です。
・ホウレンソウ
日本の企業でよく言われる「報告・連絡・相談」。細かいことまで報告しなくてもよいと考える外国人社員もいますが、日本の企業内では「ホウレンソウ」という言葉があること、自己判断で進めるよりも、上司に相談しながら進めたほうがよい場合も多いことは伝えておくとよいでしょう。
・時間感覚の理解も大事
「始業9時」と言われたら9時ぴったりに来ればいいと、悪気なく考える文化出身の外国人社員もいるでしょう。企業文化にもよりますが、9時始業というのは9時から仕事に取り掛かれることだと伝えておくことも必要です。悪気のない行動でも不当な評価につながりかねず、引いては職場内で孤立する要因にもなりかねないからです。
同時に、日本人社員側にも理解を求める
ビジネスの場では長々とした言葉は必要ありませんが、簡潔でも配慮のある⼀言があるのとないのとでは、コミュニケーションの円滑さが変わります。また、外国人社員への研修と同時に、日本⼈社員側にも外国人社員が持つ背景文化に対する理解を深める研修も行うと、いっそう効果的です。
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執筆者:青山美佳
フリーランスライター・編集者
成城大学文芸学部マスコミュニケーション学科卒。
主に、外国人の日本語学習、言葉とコミュニケーションにかかわる分野を中心に、日本語能力試験の問題作成・テキストの執筆、取材・記事執筆、編集・校正、文章添削などを行う。