外国人材が語学力等を活かすのに必要な「技能・人文知識・国際業務」ビザに加え、2019年に人手不足が深刻な14分野の特定技能ビザが創設されました。今回は、企業の日本語研修担当者が知っておくべきビザの種類をまとめてみます。

 

1.「技能・人文知識・国際業務(技人国)」ビザ

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就業ビザは、20203月現在、「教授」「芸術」「介護」など16種類が挙げられていますが、その中で、企業に雇用されてオフィスワークや技術職などに従事する場合に適用されるのが「技能・人文知識・国際業務」ビザです(省略して「技人国」ビザ)。「技術」は、機械工学などの技術者やシステムエンジニアなどが、「人文知識」は、企業の経理や営業などの事務職が、そして、「国際業務」は、通訳者・翻訳者、デザイナー、企業が運営する語学学校の教師などが該当します。

 外国人なら誰でも「技人国」ビザが取得できるわけではありません。以下にポイントをまとめます。

 

①技術や知識に専門性があること

 「技人国」ビザを持つ外国人が携わるのは「技術や知識などの専門性が必要とされる業務」です。大学や専門学校などで、その専門知識や技術を習得していることが求められます。したがって、専攻分野と従事する業務に関連がなければなりません。

 「関連性のある業務」とは、「技術」の場合、「理学、工学、その他の自然化学の分野に属する技術を要する業務」とされています。例えば、工学を専攻して卒業し、ゲームメーカーでオンラインゲームの開発及びサポート業務などに従事する場合などです。

 「人文知識」は、「法律学、経済学、社会学、その他の人文科学の分野に属する知識を要する業務」とされています。例としては、大学で会計学を専攻して卒業し、コンピュータ関連会社や情報処理会社との契約に基づき、同社の海外事業本部において会計業務に従事する場合などです。

 「国際業務」は、大学を卒業後、語学学校との契約に基づき、語学教師としての業務に従事するケースなどです。

 

②日本人と同額以上の報酬であること

 もう1点大切なのは、日本人と同額か、それ以上の給与が設定されていることです。外国人であることを理由に低い給与を設定することは禁止されています。

 

③その人を雇用する合理的な理由があること

その企業にとって、その外国人を雇用しなければならない合理的な理由が必要です。例えば、ある宿泊施設が、大学で日本語を専攻したネパール人を通訳・翻訳者として雇用したい場合、宿泊客の大半が中国人でネパール語を話す客がいないケースなどは、ネパール語の通訳は必要ないと判断され、不許可になることがあります。

また、本人が大学や専門学校に通学していたときに、資格外活動として認められているアルバイトの上限時間(週28時間)を著しく超過していたりする場合、素行が良好ではないとされ、不許可となることもあります。

 

2.「特定技能」ビザ

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「特定技能」は、20194月に新しく創設された在留資格です。人手不足が深刻な14の分野、例えば、介護、飲食、農業などにおいて、単純労働を可能にし、外国人を担い手として迎えようというものです。まずは、この在留資格の枠組みを見てみましょう。

 

①2段階に分かれている「特定技能」

特定技能は「特定技能1号」「特定技能2号」の2段階に分かれています。1号は簡単な業務に就くもので、就業分野の知識・技能を測る「技能試験」と、日常会話程度の日本語力(N4程度)を測る試験に合格しなくてはなりません。在留期間は最長5年で、更新はできず、家族帯同は認められていません。

1号を終えて、一定の試験に合格すると、2号の資格が得られます。2号が設けられているのは14分野のうち、現状では建設業、造船・舶用工業の2分野だけです。更新回数に上限はなく、事実上、在留期間に上限はありません。家族の帯同も認められます。賃金は1号、2号とも、日本人と同等以上と定められています。

 

②「特定技能」を取得するための要件とは?

 「特定技能」は、学歴、実務経験は問われません。また、2020年4月からは、在留資格をもって在留する人は一律に受験が認められることになりました。これによって、今まで中長期滞在者に限られていたものが、観光やビジネスなどで初めて来日して3カ月以内の短期滞在者も試験を受けられることになりました(法務省ホームページ)。背景には、当初の見込みよりも人数が増えていないことがあると見られます。

もう一つ、1号に関しては、技能実習からの移行というルートもあります。「技能実習」は「発展途上国への技術移転」を目的に創られた制度で、「技能実習2号」を良好に修了している場合、特定技能1号に試験などが免除されて移行することができます。

 

3.「特定活動46号」ビザ

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「特定活動」とは、「定住者」「日本人の配偶者」などと並び、ワーキングホリデーや外交官などの家事使用人、EPA看護師・介護福祉士候補者などに付与される「特定ビザ」のカテゴリーにあるものです。その中に、20205月、新たに追加されたのが「特定活動46号」です。

 「特定技能」と名称は似ていますが、異なるもので、主に日本の大学・大学院を卒業し、学位を持つ外国人留学生を対象にした在留資格です。これまでの制度では、大学・大学院を卒業して企業に就職する場合は、「技人国」ビザを取得することが求められ、飲食店や小売店などのサービス業や製造業の作業員として就労することは認められていませんでした。しかし、インバウンド需要の高まりや、民間の企業で働いている外国人と日本人との橋渡しをする人材が求められるようになってきたため「特定活動46号」の在留資格が設けられました。

 

①就労できる業種は?

 「特定活動46号」ができたのも人手不足が背景にあります。業種で見ると、製造業の現場、サービス業、飲食店、スーパー、コンビニなどへの就職が想定されています。ただし、現場で単純労働だけに従事することは認められていません。例えば、語学力を生かして飲食店で外国人客への接客をしながら通訳業務を行ったり、技能実習生のいる工場で日本語の指示を実習生に伝えながら自身もラインに入るなど、現場業務を兼務する必要があります。

 

②「特定活動46号」の取得条件は?

 6つの条件が設定されています。まずフルタイム(常勤)であること。正社員でも契約社員でも構いません。2つ目は日本の大学・大学院を修了していること。3つ目は高い日本語力があること。日本語能力試験の最高レベルであるN1合格、もしくはBJT480点以上が求められます。4つ目は日本人と同等以上の報酬であること。5つ目は日本語での円滑な意思疎通を要する業務であること。上述したように単純労働だけでは認められません。そして、最後の6つ目は日本の大学で修得した幅広い知識と応用能力を活かせる業務であることです。

 

③外国人材を生かすためにキャリアアップの道筋を示す

日本の大学や大学院を卒業して、日本で就職したい外国人留学生は増加しています。国も2016年に「外国人留学生の就職率を、これまでの3割から6割に引き上げる」という方針を示しています。外国人の就職機会が広がったとはいえますが、それが、外国人が希望する仕事であるのか、採用や日本語研修においてはキャリアアップの道筋をきちんと示すなどの工夫も必要でしょう。

 

4.「高度人材」ビザ

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①高度人材の活動内容は3分野

 「高度人材」とは、法務省のサイトでは「国内の資本・労働とは補完関係にあり、代替することが出来ない良質な人材」とされていますが、その活動内容によって、「高度学術研究活動(高度専門職1号イ)」(研究、研究の指導、または教育)、「高度専門・技術活動(高度専門職1号ロ)」(自然科学や人文科学分野)、「高度経営・管理活動(高度専門職1号ハ)」(事業経営や管理)の3つに分かれます。

 

②ポイント制で、優遇措置が受けられる

こうした「高度人材」の受け入れを促進するために、2012年に始まったのが「高度人材ポイント制」です。学歴、職歴、年齢、年収、日本語力などをポイント化して加算していき、70点に達している人には出入国管理上の優遇措置が与えられます。優遇措置とは、例えば、在留期間が長くなる、永住許可が取得しやすくなる、親の帯同が認められる、などです。

例えば、「技人国」ビザで働く人材が「高度人材」の要件を満たせば、「高度専門職1号ロ」の在留資格に変更することも可能です。高度人材の在留資格取得を日本語研修の目的として設定することで、モチベーションを向上させることにもつなげられるでしょう。

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外国人の就労に関する在留資格は、その時々の雇用状況、経済状況などにより、変更や改正がよく行われます。法務省や外務省、出入国在留管理庁などから出される情報やサイトを日頃からチェックして、外国人材がより活躍しやすい環境を整えていくのも企業の日本語研修担当者が担う重要な役割の一つだと言えるでしょう。

 

※2020年5月現在の情報です。 
 詳細は法務省、外務省、出入国在留管理庁のサイトなどでご確認ください。

 

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執筆者:青山美佳
フリーランスライター・編集者 
成城大学文芸学部マスコミュニケーション学科卒。
主に、外国人の日本語学習、言葉とコミュニケーションにかかわる分野を中心に、日本語能力試験の問題作成・テキストの執筆、取材・記事執筆、編集・校正、文章添削などを行う。

 

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