外国人社員に対する日本語研修はどのような内容でカリキュラムを立てるべきでしょうか。「オフィスや仕事で必要とされる日本語」に着目し、効果的な研修内容について考えてみたいと思います。今回は、大きく「書く」「話す」に分け、「ビジネスメールの書き方」と「会議でよく使われる表現」の2つの研修内容について考えてみます。

 

<書くこと>
日本語のビジネスメールの書き方と、研修で押さえるべきポイント

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ビジネスにおいてメールは欠かせないコミュニケーションツールとなっています。ただ、話すのは得意でも、日本語でメールを書くのは自信がないという外国人社員もいるでしょう。日本人を相手にメールでビジネス上のやりとりをする場合、どのようなことに気をつけて書けばよいのでしょうか。

外国人対象の研修としては、母語でのメールにおける習慣と日本のビジネスメールの習慣で、違いがある部分を意識して内容を考えるのがポイントです。

 

①件名は、内容が伝わる簡潔なものに

メールを作成する際、「要件を、わかりやすく、簡潔に」という基本は、日本語でも他の言語でも変わりません。件名は内容が伝わりやすいものにします。長すぎないこと、件名を読んだだけで内容がわかるような付け方ができるようなトレーニングをしましょう。

 

②相手の名前の記し方

日本語のメールでも、最初に相手の名前を書きます。取引先の相手なら、「会社名+役職名+名前(フルネーム)+様」「名前(苗字)+様」「名前(苗字)+さん」など、いくつかパターンがあります。敬称(役職名、様、さんなど)の付け方、相手との関係によって丁寧さの度合いを変えることなどを指導するとよいでしょう。また、外国人社員が意識しておいたほうがよい点として「ウチとソト」の概念も盛り込むと効果的です。


③コミュニケーションの潤滑油になる簡単な挨拶を一言

「メールは要件のみを簡潔に」は、確かにその通りではあるのですが、要件だけではやや不躾な印象を与えることもあり、日本人同士でやりとりされるビジネスメールでは、要件に入る前に一言、挨拶の言葉を添えることが多いようです。長々とした挨拶を述べる必要はありませんが、よく知っている相手なら、「お世話になります。」「いつもお世話になっております。」など、コミュニケーションの潤滑油となる定型の一文を入れることを押さえておきましょう。

 

④使用頻度の高い表現や漢字を教える

ビジネスメールでよく使われる表現や、メール文中でよく見る漢字などをまとめて教えることも有効です。よく使う表現は、シーンや機能別に整理して教えると効果的です。例えば、確認をするメールであれば、「◯◯の件、いかがでしょうか」「○○の進捗をお知らせください」など。

よく使われる漢字であれば「添付」「後送」「送付」など、使用頻度の高い語彙を導入すると受講者の満足感も得られやすいでしょう。

 

<話すこと>
会議で必要な日本語と、研修で押さえるポイント

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日本の会議では、企業文化によっても差はありますが、日常的な会話よりも、ややかしこまった表現が使用されます。賛意や同意を示す、反対意見を述べる、会議でプレゼンテーションや説明をするなど、ここでは会議での話し方のポイントについて考えてみます。

 

①同意を示す言い方

賛意や同意を示す表現で、汎用性が高く使いやすいものを押さえ、その上で言い方のバリエーションをいくつか押さえるとよいでしょう。賛成の根拠も添えられると、より説得力を高めることができます。

使用頻度が高い表現例:「◯◯さんの意見に賛成です」「◯◯の案がよいのではないでしょうか」「◯◯部長の案に賛同いたします。なぜなら……」

 

②反対意見を述べる言い方

最も難しいのは反対意見を述べる場合でしょう。ストレートに反対の立場を明確にして述べる言い方もありますが、日本人の合意形成の方法として、相手への配慮を示しながら自分の意見を述べる方法が好まれやすいという文化的な背景があることは、知識として押さえておきたいところです。反対意見を述べる時に使う表現として、前置き表現、最後まで言い切らない言いさし表現、婉曲表現なども盛り込むとよいでしょう。

表現例:「◯◯という意見も理解できるのですが、私は●●のほうがよいのではないかと考えますが(いかがでしょうか)。」「A案もよい方法だと思うのですが、▲▲の観点から、今回はB案のほうがよりふさわしいのではないかと……」

 

③プレゼンテーションや説明・提案するための日本語

プレゼンテーションや説明・提案をする際は、反対意見を述べるときとは反対に、語尾をはっきりさせて述べるのがポイントです。よく使用する表現を押さえるとともに、発音やパフォーマンスについての知識を与えたり、内省の機会となるような研修を組み込むことも必要でしょう。また、話の構成をロジカルに組み立てて述べる訓練も併せて行うと効果的です。

 

企業文化・業務内容、そしてシチュエーションに配慮した研修を

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ビジネスシーンで必要な日本語は、さまざまですが、今回は「書く」「話す」について、どのような研修内容が必要か考えてみました。社内事情や業務内容によって、必要な表現や求められるスキルは異なると思われますので、研修担当者としては、社内でどのような表現がよく使われ、好まれるのかなど、データを集取・分析した上で、研修内容に反映していくことが重要な役割となるでしょう。その前作業が、より役立つ研修をデザインすることにつながります。  

                                                  

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執筆者:青山美佳
フリーランスライター・編集者 
成城大学文芸学部マスコミュニケーション学科卒。
主に、外国人の日本語学習、言葉とコミュニケーションにかかわる分野を中心に、日本語能力試験の問題作成・テキストの執筆、取材・記事執筆、編集・校正、文章添削などを行う。

 

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