「やる気を出す」のは難しいことです。これは多くの人が直面してきた問題でしょう。

自分の「やる気」をコントロールすることも難しいのに、他人の「やる気」をコントロールするのは、さらに難易度が高いといえます。親は子どもに、教師は学生・生徒に、上司は部下に対して、なんとか「やる気」を出させようと苦心することもあると思います。筆者自身も大学での教員生活中に、学生の学習モチベーション向上を働きかけるも上手くいかなかった経験がたくさんあります。

 

それではなぜ他人の「やる気」を出させるのは難しいのでしょうか。そして、どうすれば上手に「やる気」を出させることができるのでしょうか。

なぜ「やる気を出す」のは難しいのか

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「やる気」を出すのが難しい理由として、メタ動機づけの問題があります(赤間,2016; 村山,2014)。メタ動機づけとは簡単にいうと、「やる気」そのものや「やる気」に関連するものをどのように個人が認識しているか、といえます。例えば自分の「やる気」がどういう状態かという認識や、どうすれば「やる気」を上げられるかという方略や、自分の「やる気」をコントロールできるかという評価などはすべてメタ動機づけといえます(詳しくは赤間(2015)などを参照)。このメタ動機づけがズレていると、「やる気」を上手にコントロールすることが難しくなります。

例えば「やる気」を出すためによく使う方略が、実際には有効ではないのに有効だと認識して使い続けると、結果として「やる気」は出てきません。さらにこれを繰り返すと「自分はやる気を出すことができない人間なんだ」という認識が形成される恐れもあります。自分の「やる気」に関する認識に誤りがあると、「やる気」のコントロールは難しくなります。

他者の「やる気」をコントロールするのはさらに難しいです。なぜなら、教師・親・上司といった動機づけを働きかける側と、生徒・子ども・部下といった動機づけを働きかけられる側がそれぞれ異なったメタ動機づけをもっている場合があるからです。特に、教師・親・上司側のメタ動機づけが誤っている場合、効果のない方略で空回りを繰り返し、「これだけやっているのに、なぜやる気を出してくれないのだろう」と生徒・子ども・部下側に問題があると誤認識してしまう恐れも生じます。

メタ動機づけと発達段階

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メタ動機づけは小学生ごろから発達し、中学生ごろには自分で動機づけをコントロールできるようになるとされています(赤間,2016)。小学生ごろには、自分の「やる気」に関する認識は小学生ごろから獲得されていくとされています。この認識が正しく獲得されれば、自分の「やる気」の状態を正しくモニタリングすることができ、正しい方略で自分の「やる気」をコントロールすることができるようになります。

しかし、誤ったメタ動機づけを獲得してしまうと、特に小学生ごろまでは「やる気」のコントロールが難しくなるとされています。小学生ごろまでは自分のメタ動機づけの把握が難しく、自分の「やる気」がどういう状態なのかであったり、「やる気」を調整する方略に効果があるかなどを正しく認識するのが難しいといえます。したがって、子どもの「やる気」の状態や「やる気」のコントロール方略の効果に対しては、親や教師など外部の人間が様子をモニタリングして、子どもに適切なフィードバックをする必要があります。

なお、自分のメタ動機づけのモニタリングは大人でも難しい場合があり、自分の「やる気」の把握や、「やる気」のコントロール方略の効果を誤認識することもあります。どうしても「やる気」が起きないときは、大人でも自分の状態や方略について、他者の意見を聞いてみるのもよいかもしれません。

特に気をつけたい子どもへの働きかけ

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自分や他人の「やる気」のコントロールを考える上で、メタ動機づけ、つまり「やる気」をどのように認識しているかが重要だと述べてきました。その上で特に気をつけたいのは「やる気はコントロールできない」という価値観をもたない/もたせないことです。

赤間(2015)は大学生を対象に、「やる気」が出ないときはどのような方略を使って対処するかを調べました。すると、「やる気」が出ないときは「あきらめる」「やらずに投げ出す」「気にせずやらない」といった回答も出てきました。このことから「やる気はコントロールできるものではない」といったメタ動機づけをもつ人も一定数は存在しているといえます。「やる気はコントロールできない」というメタ動機づけをもっていると、自分自身から自発的に「やる気」を出すことは難しいでしょうし、他者から働きかけても「やる気」のコントロールは難しいでしょう。

なぜこのようなネガティブなメタ動機づけが獲得されてしまうのでしょうか。赤間(2016)は、「やる気」を上げる方略の失敗体験を繰り返すことで、ネガティブなメタ動機づけが形成されると指摘しています。「やる気」を出そうと試みても上手くいかず、「やる気」は自身でコントロールできないという認識がどんどん強化され、結果としてさらに「やる気」のコントロールが難しくなるという悪循環が生じるといえます。

先述のとおり、小学生ごろまでは自身のメタ動機づけの把握が難しいため、誤った「やる気」コントロール方略を繰り返す可能性があります。それによる失敗経験からネガティブなメタ動機づけが獲得される危険性は大人よりも子どものほうが大きいかもしれません。したがって子どもの「やる気」は周囲の大人が丁寧にモニタリングし、適切にフィードバックを繰り返し、「やる気」コントロール方略を修正していくことが重要といえるでしょう。

具体的にどのような「やる気」コントロール方略が妥当かについては、関連する心理学的知見を今後のコラムでご紹介していく予定です。

【引用文献】
赤間健一(2015).動機づけ始発方略尺度の作成 心理学研究 86,445-455.
赤間健一 (2016). 動機づけることが難しい理由の発達的検討 : メタ動機づけの観点から 福岡女学院大学大学院紀要 : 発達教育学 (1), 51-55.
村山航 (2014).学習者・自分を動機づける : メタ動機づけ 児童心理 68,112-116.

 

 

・モチベーションの心理学(1)目標設定で「やる気」が変わる?

 

 

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執筆者:丹野 宏昭(タンノ ヒロアキ) 
筑波大学大学院 人間総合科学研究科 心理学専攻(博士)
社会調査士。博士号取得後、東京福祉大学心理学部にて講義および研究に従事。また、学外活動として社会人を対象とした「ゲームを用いたコミュニケーショントレーニング講座」も担当。

主な研究:
・ゲームを用いたコミュニケーションスキルトレーニングに関する研究
・対人関係と適応に関する研究
・対人関係ゲームによる小中学校のクラス作りと不登校抑制のプログラム研究 

執筆:『人狼ゲームで学ぶコミュニケーションの心理学-嘘と説得、コミュニケーショントレーニング』(書籍)

 

 

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