日本では2006年に大学入試センター試験でリスニングテストが導入されました。日本の英語学習が「読む・書く」が主だった旧来型から「聴く・話す」を重要視する型に変化したといえるでしょう。つまり日本では英語コミュニケーションの重要性が増していることが明らかです。 

 

前回のコラム(コラム0学習観の違いが学業成績に影響する)では、実際の英語コミュニケーションに活用する学習観(ex.間違いを恐れずに実際に英語でしゃべることやネイティブの人が話す音声を聴くことが重要 など)をもつことが学業成績にポジティブな影響があると示しました。ところが日本人は英語のリスニングやスピーキングへの苦手意識が高く、前述のような学習観はもちにくいようです。その理由はなぜなのでしょうか。 

 

日本人はリスニングやスピーキングが苦手? 

 

2643155日本人はアジア圏の他国に比べても、リスニングやスピーキングの能力が顕著に低いです。 

例えば2019年のTOEFL iBTスコア( https://www.ets.org/s/toefl/pdf/94227_unlweb.pdf )を例にあげますと、日本人のスピーキングスコアはアジア圏で最下位、リスニングスコアも最下位と1点差となっています。なぜ日本人は英語のリスニングやスピーキングが苦手なのでしょう? 

 

日本人がリスニングやスピーキングが苦手な理由について、小田・湯沢(2018)日本語のリズムの特殊性を指摘しています。 

 

 

日本語のリズムの特殊性 

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われわれは会話するとき無意識に、話の内容や相手によって声のテンポ・アクセント・抑揚などを変えます。つまりわれわれはコミュニケーションをとるとき、発話内容だけではなくリズムもまた情報としてやりとりをしているのです。古いアニメのロボットのような平坦な抑揚の発話をイメージしてみてください。ふつうの人間同士の会話と違ってメッセージの意味や意図が受け取りにくいと想像できるでしょう。 

 

このように発話にはリズムなどの音韻情報が重要です。そして発話のリズムはすべての言語で共通ではありません。大きく分けると言語リズムは3つに分類されます。 

 

1つは英語やドイツ語などに代表される強調拍言語です。文中でアクセントをつけた音節から次のアクセント音節までの時間を等しくなる特徴があります。つまりアクセントのある語は伸ばし、アクセントのない語は縮めて短く発音されます。 

 

2つめは中国語やフランス語などに代表される音節拍言語です。これは音節、つまり母音のある語の発話時間や強さが等しくなるようにリズムをとります。 

 

そして日本語はモーラ拍と呼ばれる特殊な言語リズムをもっています。モーラ拍とは50音ひとつひとつが同じ長さになるように発音するリズムをとります。なお世界中の言語でモーラ拍をとるものは日本語だけとされています。 

 

 

(1)英語などの強調拍言語の場合 

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アクセントのある語を長く、アクセントのない語を短く発音し、アクセント音節間の時間を等しくするように発音する(A・B・Cがほぼ等しい長さ) 

 

 

(2)フランス語などの音節拍言語の場合 

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1音節を同じ長さ・強さで発音する(A・B・C・D・Eがほぼ等しい長さ) 

 

 

(3)日本語のモーラ拍の場合 

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カナ1文字を同じ長さで発音する 

 

このように他の言語と比べると日本語のリズムは特殊です。小田・湯沢(2018)は、日本語と英語の言語リズムが大きく異なるために、日本人はリスニングやスピーキングが苦手だと述べています。英語塾などでスピーキングの練習をはじめたときに、アクセントやリズムを直されたり、はたまた「感情が乗ってない」などとネイティブスピーカーの方に指導された経験がある人もいるかもしれません。それは日本語に慣れたわれわれ日本人からすると、英語はアクセントやリズムの形態が大きく異なる言語だからかもしれません。 

 

さらに小田・湯沢(2018)は英語と日本語のリズムの違いのため、日本人は英語リスニングを行うと言語性ワーキングメモリ(脳で複雑な情報処理を行う際に使用される記憶容量)を常に圧迫していると考察しています。つまり母国語の言語形態の特殊性のせいで、われわれ日本人は英語を聴いたときの脳の情報処理に高い負荷がかかっているといえます。 

 

 

英語のリズム習得が重要 

 

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日本語のモーラ拍は生後14か月ごろには習得され始めるという指摘もあり(Mazuka, Cao, Dupoux, & Christophe, 2011)、われわれは幼少期から特殊な日本語リズムに慣れてしまっているようです。そのため英語学習を行う際は、日本語とはリズムが大きく異なる言語であることを認識し、学習初期にリズムの習得を行う必要があります。 

 

英語のリズムを習得する代表的なトレーニングとしてシャドーイング(Shadowing)があります。シャドーイングとは、英語を聴きながらそれを真似して発音する学習方法です。ネイティブスピーカーの発話を聴いた直後に真似することで、正しい発音や英語のリズムを身体で覚えることができます。特に習熟度が低い学習者には短期的に効果がみられるという報告もあります(ex.小島・太田, 2010) 

 

リスニングやスピーキングの学習を始める際は、シャドーイングで英語のリズムを身に着けることからはじめてはいかがでしょうか。そうすることで英語リスニング時の情報処理負荷が減り、苦手意識もなくなると期待できます。 

 

引用文献】 

Baddeley, A. D. & Hitch, G. (1974). Working Memory. Psychology of Learning and Motivation, 8, 47-89.

小島 さつき・太田 聡一 (2010). 学生の英語聴解能力におけるシャドーイングトレーニングの効果に関する実証的研究, 宮城學院女子大學研究論文集, 110, p.47-62. 

Mazuka, R., Cao Y., Dupoux E., & Christophe A.(2011). The development of phonological illusion: across-linguistic study with Japanese and French infants. Developmental Science, 14(4), 693-699. 

小田 真実 ・湯澤 正通(2018). 日本語母語話者による英語音声の知覚・発声と学習 広島大学大学院教育学研究科紀要. 第三部 (67), 171-178, 2018




 

prof tanno 0507トリミング

執筆者:丹野 宏昭(タンノ ヒロアキ) 
筑波大学大学院 人間総合科学研究科 心理学専攻(博士)
社会調査士。博士号取得後、東京福祉大学心理学部にて講義および研究に従事。また、学外活動として社会人を対象とした「ゲームを用いたコミュニケーショントレーニング講座」も担当。

主な研究:
・ゲームを用いたコミュニケーションスキルトレーニングに関する研究
・対人関係と適応に関する研究
・対人関係ゲームによる小中学校のクラス作りと不登校抑制のプログラム研究 

執筆:『人狼ゲームで学ぶコミュニケーションの心理学-嘘と説得、コミュニケーショントレーニング』(書籍)

 

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