以前のコラム(コラム05. なぜ日本人はリスニングやスピーキングが苦手なのか)では日本人がリスニングやスピーキングを苦手とする理由について書き、前回のコラム(コラム06. 英語リスニング能力向上に効果的な学習指導法①)ではディクテーションやシャドーイングについてご紹介しました。今回はさらに別の種類のリスニング学習法についてお伝えします。

 


英語と日本語は文法構造も異なる


苦手
以前のコラムで、日本人がリスニングを苦手とするのは英語と日本語でリズムやアクセントが違うため、情報処理する際の負荷が大きいことを理由としてあげました。それを解消するためのトレーニング方法としてディクテーションやシャドーイングを紹介しました。

しかし日本人がリスニングを苦手とする理由は他にもあるようです。小山(2011a)は日本語と英語の文法構造上の違いを理由にあげています。英語は”I bought a book”に代表されるようなSVO型(主語・動詞・目的語の順)の構造です。一方で日本語は”私は本を買った“に代表されるようなSOV型(主語・目的語・動詞の順)の構造です。リスニングでは音声を瞬時に処理する必要がありますが、この語順の違いによって負荷が生じ、情報処理に時間がかかっている可能性があると指摘しています。

 

リスニングには継時処理スキルが重要


継続リスニングの音声はリーディングの文章と違い、即座に情報処理をしないと消えてしまいます。文章であればもう一度読み返して意味を理解することができますが、リスニングはそれができません。

つまりリスニングの際に必要な瞬時の情報処理が難しいために日本人は英語リスニングが苦手といえます。逆にいえば、瞬時の情報処理ができるようになれば、日本人も英語リスニングが楽になると考えられます。

そこで小山(2007,2009)は継時処理スキルに着目し、リスニング成績との関連を検討しています。継時処理スキルとは、情報を順番通りに戻らずに処理するスキルのことです。つまり英語を、英語の語順でスムーズに情報処理していけるかが、リスニング能力に重要と考えたのです。そして小山(2007)が検証したところ、英語リスニング成績が高い人は低い人よりも継時処理スキルが高いことが示されました。この結果をもとに小山(2009)は、英語リスニングは「音声情報認識」だけではなく「継時処理スキル」のトレーニングが重要と指摘しています。それでは継時処理スキルを上げるためにはどうすればよいでしょうか?


速読でリスニング能力アップ?

速読小山(2009,2010)は英文速読訓練によって継時処理スキルが上がることを示しました。速読は、停止したり読み戻ることがほとんどなく、大意を把握するという点でリスニングに似ているといえます。小山(2009)は大学生を対象に、週に1回10分程度、8週にわたって英文速読訓練を行ったところ、ディクテーション訓練を行った群よりもリスニングスコアが上昇していたことを明らかにしました。

それではリスニング能力アップのためには英文速読訓練だけしていればよいかというと、そうでもありません。先述のとおりリスニングには継時処理スキルと音声情報認識が重要です。小山(2008)によると、もともとの音声認識能力が高いとき、英文速読訓練の効果が高まることを明らかにしています。また小山(2010)は高校生を対象に英文速読訓練を実施したところ、訓練前にディクテーションスキルが高かった群は低かった群よりもリスニングスコアが伸びていました。この結果からディクテーションなどの英語音声を実際に聞く訓練と英文速読訓練を組み合わせることで、よりリスニング能力の向上が望めるといえそうです。

このように英文速読はリスニング能力アップを目指すために有効なトレーニングといえそうです。リスニングのトレーニングなのに音声を聴かないため違和感があるかもしれませんが、シャドーイングやディクテーションと組み合わせて実施することで、より効果が見込めます。英文速読は、英語の本でも新聞記事でもなんでも、英文だけあればどこでも気軽に実施できるトレーニングですので、空いた時間などにお試ししてみてはいかがでしょうか。

 


【引用文献】
小山 義徳(2007).継時処理スキル──日本人英語学習者においてリスニング成績上位群と下位群を分ける技能── JALT Journal,29,231-242.
小山 義徳(2008).英文速読訓練が高校生の英語リスニング能力の伸長に与える影響:音声情報認識能力との関係, 本教育工学会論文誌, 32(Suppl.), 49-52.
小山 義徳(2009).英文速読指導が日夲人大学生の英語リスニング能力の伸長に与える影響の検討 一ディクテーション訓練との比較一, 日本教育工学会論文誌,32, 351-358.
小山 義徳(2010).英文速読訓練が英語リスニングスコアに与える影響と学習者のディクテーション能力の関係, 日本教育工学会論文誌, 34, 87-94.
小山 義徳 (2011 a). 関係代名詞を含む英文の処理時間と英語リスニング熟達度の関係の検討, 心理学研究, 82, 150-157.

 

 

 

prof tanno 0507トリミング

執筆者:丹野 宏昭(タンノ ヒロアキ) 
筑波大学大学院 人間総合科学研究科 心理学専攻(博士)
社会調査士。博士号取得後、東京福祉大学心理学部にて講義および研究に従事。また、学外活動として社会人を対象とした「ゲームを用いたコミュニケーショントレーニング講座」も担当。

主な研究:
・ゲームを用いたコミュニケーションスキルトレーニングに関する研究
・対人関係と適応に関する研究
・対人関係ゲームによる小中学校のクラス作りと不登校抑制のプログラム研究 

執筆:『人狼ゲームで学ぶコミュニケーションの心理学-嘘と説得、コミュニケーショントレーニング』(書籍)

 

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