学校の先生方は学生・生徒にどうやる気を出してもらうか苦心されることもあるでしょう。そんな時は学習にゲーム要素を入れることでやる気や興味を刺激するのも一つの策です。このコラムではゲームの要素によってやる気を引き出す手法「ゲーミフィケーション」について説明いたします。

 


ゲーミフィケーションとは


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ゲーミフィケーション(Gamification)は色々な定義がありますが、簡単にいうと「ゲームのノウハウを利用してモチベーションを上げたり行動を促進させる仕掛け」のことです。ゲーミフィケーションは2010年代から広がり、さまざまな分野で活用されてきました。

例えばヘルスケアの分野では、運動量をスコアとしてポイントを競ったり、ポイントを貯めることでゲームが進むアプリなどがたくさん開発されています。また東日本大震災時に日本中で節電の重要性が広まりましたが、その際には「#denkimeter」というゲームが話題になりました(井上,2012)。これは節電した電力量をネット上で競うゲームなのですが、シンプルなゲーム要素によって節電行動を促進した好例といえます。

このようにゲーム要素によってさまざまな行動を促進したり、やる気を上げたりする試みは常識になりつつあります。そしてもちろん、教育場面でもゲーム要素によってやる気や学習行動を促進する試みが行われています。

それではどのようにゲーム要素を扱えばよいのでしょうか?


ゲーム化の基本要素

 

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まず、そもそもゲームに必要な要素を整理します。

McGonigal(2011)は全てのゲームに共通する4つの要素があると述べています。

 


(1)ゴール:プレイヤーが達成すべき具体的な成果

(2)ルール:プレイヤーがゴールに達する上での制約条件

(3)フィードバック:プレイヤーがどこまで近づいているかを示すもの

(4)自発的参加:プレイヤー全員が上記要素を理解して受け入れていること



ゴールはプレイヤーに目的意識を与え、ルールはプレイヤーに戦略的な思考を促します。またフィードバックはプレイヤーにプレイし続ける意欲を与えます。そして自発的参加により複数のプレイヤーが共通認識をもつことができます。

 


さらに、ゲーム化の基本要素としてPBLがあります。


Point(ポイント):進み具合を数値化する

Badge(バッジ):成果に応じて与えられる勲章や称号など

Leaderboard(リーダーボード):ランキングなど参加者同士を比較した際の立ち位置を示すもの


これらはいずれもゲームにおけるフィードバック要素といえます。例えば学習数や時間をポイント化して明示し、ポイントに応じたレベルや称号を与え、参加者のランキングを示すことなどは、比較的簡単にできる学習のゲーム化といえるでしょう。これらのフィードバック要素を組み込み「ゲームっぽさ」を強くすることで、学習者のやる気や興味を引き上げることが期待できそうです。


教育場面はそもそもゲーム?

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上記のようなPBL導入の工夫自体は、旧来から教育場面で取り入れているケースも多くあります。しかし上手くいかないことも多々あります。

実は、そもそも教育場面では上記のゲーム要素が含まれているケースはたくさんあります。例えば学習数や時間を数値化すること自体はよくやられています。テストの点数に応じた合格・不合格はバッジにあたるかもしれません。成績の順位発表や偏差値などはリーダーボードといえるでしょう。そう考えるとテストはゲーム要素をたくさん含んでいます。それなのに多くの人はゲームのように「楽しい」という気持ちにはなりにくいでしょう。

つまり上記の要素はあくまでゲームの基本であって、それだけでは学習者をワクワクさせてやる気や興味を引き出すシステムにはなりえないようです。例えば神馬・石田・木下(2012)はゲーミフィケーションの要素を17個もあげていますし、Chou(2015)は8つの核となる概念をあげています。これらをまとめて、比較的簡単に導入できそうな例を示します。


ストーリー(物語性): ゲームの背景や、学習が進むにつれて進んでいく物語を設定することで、参加者の感情を揺さぶり興味を引きます。また途中で謎が明かされたり、意外性のある展開があると、長期の学習プログラムでも飽きない工夫となります。ストーリーが進むことで新たな要素が増える(アンロック)仕組みも有効です。

競争と協力: 学習成果はふつう個人の達成目標になりますが、他の参加者と共通目標をもたせて一緒にゲームをする意識をもたせる工夫も有効です。例えばチーム制にして他のチームと競争させたり、チーム内での協力により達成できるミッションなどを組み込むと、一人ですすめる場合とは異なるモチベーションの種を設定することができます。


その他にも、例えば視聴覚を刺激する映像を利用したり、進捗に応じてアイテムを収集する要素を加えることなどもゲームとしての興味を引きつける要素になります。基本要素のPBLに加え、ゲームとしての面白さを引き出す要素を加えていくことで、参加者のやる気をあげる学習プログラムが構成できると期待できます。


【引用文献】
Chou Y.K. (2015) Actionable Gamification: Beyond Points, Badges, and Leaderboards, Createspace Independent Publishing Platform
井上 明人(2012) ゲーミフィケーション ゲームがビジネスを変える, NHK出版
神馬 豪・石田 宏美・木下 裕司(2012) 顧客を生み出すビジネス新戦略, 大和出版
ジェイン マクゴニガル(2011) 幸せな未来は「ゲーム」が創る, 早川書房

 

 

 

prof tanno 0507トリミング

執筆者:丹野 宏昭(タンノ ヒロアキ) 
筑波大学大学院 人間総合科学研究科 心理学専攻(博士)
社会調査士。博士号取得後、東京福祉大学心理学部にて講義および研究に従事。また、学外活動として社会人を対象とした「ゲームを用いたコミュニケーショントレーニング講座」も担当。

主な研究:
・ゲームを用いたコミュニケーションスキルトレーニングに関する研究
・対人関係と適応に関する研究
・対人関係ゲームによる小中学校のクラス作りと不登校抑制のプログラム研究 

執筆:『人狼ゲームで学ぶコミュニケーションの心理学-嘘と説得、コミュニケーショントレーニング』(書籍)

 

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