1990年代のバブル崩壊以前まで、多くの企業は異文化理解という問題をそれほど重視しておらず、むしろ赴任先での生活がスムーズに行えるよう現地事情に関するセミナーを海外赴任者を対象に行うような形が一般的でした。また赴任先も欧米(一部は韓国や台湾)であることが多く、異文化というよりも、いかに英語力を赴任時までに引き上げるかという点に焦点が当てられていました。

バブル崩壊以降、グローバル化が加速すると、多くの日本メーカーがコスト削減のために海外移転を積極的に推し進めるようになります。この時期には特に中国やタイといったアジア諸国への進出が急増し、それにともない、現地の社員や工員をいかに日本型システムに順応させて効率的に働かせるか、また十分に管理・監督するにはどうすればよいのか、という課題が大きな関心事となります。特に中国人社会は日本のそれとはまったく仕組みが異なっており、そのため多くの日本人が自社工場の現地化を試行錯誤で推し進めることになりました。

その後、2000年を迎え、日本企業のブランド力に陰りが見え始めると、海外における現地社員の地位が相対的に情報をはじめ、もはや「ブランドのある日本企業なので多少は我慢しても日本式企業文化を受け入れる」という状況は過去のものとなり、多くの日本企業は、外国人/現地人社員をビジネスパートナーとして受け入れ、彼らといかに協調しながら成果を出すべきかという問題に直面することになります。

異文化理解するに対する意識の希薄さ

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そこで分かったことは、海外の事情や文化に対する理解を充実させることの重要性に対して、多くの日本企業が非常に無関心であったことです。これまでは日本企業が海外に行けば、日本のブランド力と円の力で海外パートナーや現地労働者を指揮することができ、日本国内では「郷に入らば郷に従え」とばかりに外国人社員を「日本人化」することでなんとかなっていたのです。

しかし今日多くの日本企業は日本型ビジネスモデルの限界を痛感しており、優秀な外国人社員を獲得することはおろか、海外拠点においても十分な成果を上げづらくなってきているのが現実です。

こうした問題の根本にあるのが、異文化理解するに対する意識の希薄さにあると言えます。しかしグローバル化の中に放り込まれた日本企業はさまざまな点で待ったなしの状況に置かれています。実際にグローバル化の中で後手に回ったかつてのエリート企業の中にも市場から姿を消したものも少なくありません。

 

世界の市場で「おいしくて魅力的」な企業になるために

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これからは、優秀な外国人社員/現地人社員を集め、異なる常識を持った人間とのチームを作り、彼らのやる気を支え、団結させると同時に、こうした多文化チームから外国市場にも魅力的なイノベーションを素早く生み出し、スピーディーに決断を下し、異文化の市場を開拓し、異文化のパートナー企業とシナジー効果を生み出す、そうしたスキルを持つ日本人社員の育成、そしてそうした人材を内包する企業文化の構築が求められています。

海外における日本企業のプレゼンスが低下したのは、単にコストで新興国に差を付けられたからではないでしょう。先進国の産業パラダイムが、職人的経験知を基盤とした製造業モデルから、サービス業およびデジタルテクノロジーへ変貌した今、外国の関与なしに、日本人の視点と経験だけで世界に通用する商品を開発・提供することはほぼ不可能と言えます。アジアで成功を収めている味の素やスズキ自動車は、現地における異文化の壁を乗り越えて、徹底したローカライズを図ったことが、成功をもたらす大きな要因となったと言われています。

ライフネット生命の創始者である出口治明氏は、あるセミナーで「企業というのは料理に似ている。異なった多くの材料がうまくブレンドされているものがもっともおいしい」という話をされていましたが、グローバルビジネスにおいても同様のことが言えるでしょう。グローバル企業という皿の中で、さまざま異なる常識や価値観を持つ人間が多く、しかもバランスよく混ざりあう、そんな企業こそ、世界の市場において「おいしくて魅力的」な企業になるのではないでしょうか。

 

執筆者:鈴木武生 Ph.D.
株式会社アジアユーロ言語研究所代表取締役。会社HP: https://asiaeuro.org

早稲田大学および跡見学園女子大学非常勤講師。(株)日中韓辭典研究所言語学顧問。さくらリンケージインターナショナル社シニアコンサルタント。

商社勤務後,翻訳・通訳者、漢英字典編纂者を経て独立し,アジアユーロ言語研究所を設立。翻訳・通訳業務,多言語辞書編纂,データ処理,検索エンジン開発を行うとともに,大手外資系メーカーのアジア太平洋地区ビジネス開発を支援。また企業向けスキル研修プログラム(英語,中国語,異文化理解など)の開発と実施,ならびにグローバル人材研修・開発のコンサルティングを行う。

「海外経験のない一般的な日本人が、外国語能力を身に付け、外国人と自然なコミュニケーションが図れるようになるためには、一体何をどのように実践したらよいのか、またどうすればそうした学習者を支援できるのだろうか」という思いで設立。企業向け語学研修・異文化研修を中心に、日系・外資を問わずあらゆる業種の企業に対して、学習者の語学力向上をサポート。
東京大学総合文化研究科修了(言語情報科学専攻),言語学博士。研究対象は英中日台の語彙概念意味論、言語類型論、語用論、構文論。またタイヤル語(台湾原住民族語)のフィールドワークを行う。

著書:「異文化理解で変わる ビジネス英会話・チャット 状況・場面115」 (Z会のビジネス英語)

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