海外赴任者の健康管理の最終回です。

 

最近では新型コロナウイルスの落ち着きやそれに伴う入帰国規制の緩和に伴い、短期海外出張者も増えています。しかし、現地で予期せぬ病気や怪我に見舞われることは誰にでも起こり得ます。今回は現地での医療機関へのかかり方ついて取り上げます。

 

なお筆者は医療の専門家ではありませんので、詳細かつ正確な内容は海外渡航医療の専門家にお尋ねください。


保険は必須!

保険証海外赴任者については現地でのビザや滞在許可取得要件に健康保険加入が義務付けられているケースがほとんどです。しかし、短期出張者の方についても必ず渡航前に加入するようにしましょう。国によっては高額な医療費を請求される可能性もあります。

また単に加入したから安心、ではなく、保険会社に請求を行う際に必要書類や請求方法を事前に確認しておいた方が良いでしょう。カバーされる範囲(処方薬などの取り扱い、通訳を雇った場合)や、請求にあたって必要な書類は何かなどです。しかし、ほとんどの人がよく確認せずに、病気や怪我に見舞われると思います。その場合は診断書や請求書・領収書、クレジットカードで支払った場合はその明細など書類は一通り保存しておいた方が良いでしょう。診断書などは短期出張の方が後から入手するのはなかなか至難の業です。

従業員の方から保険請求について質問があるかもしれませんので、人事・労務ご担当の方もこの辺りの情報を知っておいた方が良さそうです。


よい医療機関・医師の探し方

探す日本同様、よい医療機関や医師を探すことは重要かつ容易ではありません。国や都市によっては日本人医師や日本語ができる医師や医療機関があることもあります。しかし、予約が取りづらいこともありますし、日本語ができなくても優れた医師や医療機関もたくさんあります。探し方については、以下のような方法を組み合わせることが効果的です。


•  現地在住日本人や近隣住民の口コミ
•  Googleなどのインターネット上のレビュー
•  現地の医療機関・医師の口コミサイト
•  現地の日本大使館・総領事館(ホームページに記載がないことが多いので、電話して聞いてみる)
•  現地のアメリカ大使館・総領事館などのホームページ(英語ができる医師や医療機関が紹介されていることがある)
•  予約訪問時に医療機関を直接訪問して、受付の対応を見る(よい医療機関は受付の対応がよいことが多い。ただし感染症流行時などは不可のことも)

いざ病気にかかってからや怪我をしてからでは遅いので、日頃からアンテナを張っておいた方が良さそうです。


海外の一般的な医療機関のしくみ

病院予約医療機関のしくみは国ごとに異なります。海外では医師は総合診療医(GP: General Practitioner)と専門医に分れている国も多いです。医者にかかる場合は、歯科などを除いて最初にかかりつけの総合診療医を受診します。患者は総合診療医が専門医の診療が必要と判断した場合、専門医診療を受診します。日本と同様、総合診療医の紹介状をもとに専門医を(自分で探して)予約します。

総合診療医も専門医も予約制のところが多いです。当日でも予約が取れることはありますので、診療前に電話で予約を行いましょう。国やその医療機関によってはホームページなどから予約を取れることもありますが、メールの場合は後回しにされることが多いので避けた方が良いです。

 

非英語圏で英語ができる医師であっても、受付のスタッフは英語ができるとは限りません。自分の名前、生年月日、保険の種類などは現地語で伝えられるようにしておく必要があります。相手から何曜日の何時ごろは都合が良いか、X日のYY時から来られるかなども現地語で聞かれます。英語でビジネスをされる方であっても、このような時のために多少は現地語を学んでおくのはよいと思います。

 

ただ、これらはこちらの記事の「ビジネス会話」のように、どういうことを聞かれるのかはある程度予測可能であり(日本と変わらない)、準備自体も容易です。また、電話ではコミュニケーションの齟齬が発生しそうな場合は、直接訪問して予約するのも一つの手です。

不安な場合は現地スタッフの方や通訳の方などに予約などをお願いしたり、同行してもらったりするのが良いかと思います。短期出張者の方で日本の保険会社に加入している場合は、保険会社から通訳を紹介してもらうことも可能です。ただ全ての方が医療関係の専門用語に明るいわけではないので、可能であれば問診前に一度打ち合わせをすることをお勧めします。


いざ、問診

問診当日は仮に予約をしていた場合でも、待たされることは少なくありません。したがってどの医療機関であっても受診当日は余裕をもったスケジュールとすることをお勧めします。急患対応の場合は追加料金が発生する場合もあります。なお、受付時に日本と同様の問診票を記載することが多いです。問診票は現地語のみのことも多いです。

また、英語や現地語が堪能な方であっても自身の状況を医師に説明することは容易ではありません。したがって、ご自身の症状を「現地語」で具体的にメモをしたものを持参しましょう。具体的には”どのような症状か、いつからか、これまで同じような症状を経験したことがあるか”です。英語ができる医師であってもその方がスムーズに説明が可能です。仮に通訳の方に同行していただく場合であっても、このようなメモがある方が医師とのコミュニケーションがスムーズに進みます。

もし服用している薬があれば薬のブランド名ではなく「具体的な成分と量」を現地語(もしくは英語)で調べて、どのような頻度でどのくらいの期間服用しているのか説明しましょう。また薬の服用量は日本よりも多いことが多いので、薬がききやすい人や痩せ型の人はその旨を医師に伝えた方が良いです(麻酔含む)。


気になる診察費用の支払い

支払い支払い方法は国や医療機関によって異なります。クレジットカードで支払うことができる国や医療機関もあります。入院となった場合莫大な費用が発生する場合があります。その場合後日支払いなどはできるのかなどは、病院の裁量にもよるため交渉が必要になるかもしれません。病院と保険会社とで直接話をしてもらうこともできるかもしれませんので、保険加入時に事前に確認しておいた方がよいでしょう。救急車などは多くの国や地域で有料です。また、一部の国や地域では医療費を踏み倒した形で日本人が帰国してしまい、現地の大使館や総領事館にクレームが入るケースがあるようです。

処方薬については日本同様、調剤薬局に処方箋を持参して処方してもらう国が多いです。薬剤師の方には英語が得意でない方もいますので、多少の現地語ができた方が良いでしょう。例えば、「今日は在庫がないから、明日の朝に取りにきて」、「まったく同じものはないけど、 (ジェネリック薬品など)同じ成分のものでもよい?」など、日本でよく言われるような会話がなされます。調剤薬局でもクレジットカードが使える場合とそうでない場合があります。

海外での健康管理について3回に分けてお伝えしました。現地法人が既にありノウハウがある企業の方もいらっしゃいますが、目先の業務にとらわれて後回しにされがちなトピックです。現地での拠点立ち上げや初めての海外赴任の方については、情報の少なさなども課題になろうかと思います。従業員の方の心身の健康がすべての資本ですので、赴任者・出張者ご本人だけではなく、派遣する人事の方におかれましても健康管理についてはご配慮いただければ幸いです。

 


<参考文献、お役立ち情報など>
外務省 海外安全ホームページ
https://www.anzen.mofa.go.jp/life/
外務省 世界の医療事情
https://www.mofa.go.jp/mofaj/toko/medi/index.html
各国日本国大使館のホームページ

 

 

mariko_hamada02著者:浜田真梨子(はまだ・まりこ)
株式会社ジェイシーズ執行役員 シニアマーケティングコンサルタント(欧州)
大手電機メーカーにて約10年に渡り、IT営業およびグローバルビジネスをテーマとする教育企画に従事した。その後コンサルタントとして独立し、日系・外資問わず民間企業や公的機関へのコンサルティングを行っている。中でもハンズオンベースでの調査から受注までの一連のプロセスをカバーする営業・マーケティング支援や、欧州拠点の設立などのサポートを得意とする。2016年には欧州で経営学修士号(MBA)を取得し、現在はドイツを拠点に活動している。

株式会社ジェイシーズ  https://j-seeds.jp/

連絡先:contact@j-seeds.jp 

 

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海外赴任者の健康管理〜準備編

海外赴任者の健康管理〜現地での健康管理編

 

 

 

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