英文ライティングの能力と一言で言っても、契約書や設計書のような専門文書もあれば、カタログやWEBページの文面のような社外に向けた発信文書、そして新聞・雑誌のジャーナリスティックな記事もあります。ただ多くの人にとって、会社で行うライティングと言えば、通常は電子メールのやりとりを指すと思います。

 

第一段階|英語の基礎力

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電子メールのやりとりは、専門文書や対外発信文書とは異なり、難解な専門用語や洒落た文体を用いることはなく(添付書類には専門的な技術文書が含まれる場合はありますが)、明確かつ論理的で、丁寧でポジティブな文書を書く技術が求められます。

この技術を身に付けるには二つの段階があります。まず第一段階は英語の基礎力です。これは文法、語彙、連語(be interested inのような複数語がひとまとまりになった表現)、基本例文が含まれます。これを学ぶにはTOEIC対策用のアプリや英検(レベルに応じて準21級まで)の文法問題集で対応することができます。

 

第二段階|論理的かつ丁寧に書く技術の学習

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第二段階は、論理的かつ丁寧に書く技術の学習です。論理的というのは何も「すべて三段論法で書け」ということではありません。誤解を生まないような書き方、こちらの意図が明確かつ節度を持って伝わる書き方をするという意味です。

 

①あいまいさのない、分かりやすい文を書けるように

第二段階では、学校英語に含まれないさまざまな項目を学ぶ必要があります。まず、あいまいさのない、分かりやすい文を書けるようにならなければなりません。残念ながら日本語は「分かっていることは言葉にしない」という傾向を強く持っています。そのため日本語で考えた文を英訳する場合、そもそもの日本語文自体に十分な情報が盛り込まれていないということがあります。例えば「ファイルの削除」は直訳するとdeletion of a file/files/the file(s)となりますが、マニュアルの見出しに使うのであればHow to delete an unnecessary fileとしたほうが誤解なく伝わります。こうした情報量管理の技術は技術文書を書く際には必須になります。

 

②語彙の使い分けを押さえる

また語彙の使い分けを押さえることもあいまいさの排除につながります。例えばproblemissueはともに問題と訳されますが、前者が弊害を指すのに対して後者は議題や関心の対象を指し、かならずしも悪いこととは限りません。

 

③論理的展開とパラグラフィング(段落構成)

さらに論理的展開とパラグラフィング(段落構成)も重要になります。日本式の書き方はどちらかというと因果関係よりも、「まず問題のまわりに存在する関連事項を、外堀を埋めるように言及していき、そのあと内堀にある条件に言及し、最後に結論に至る」という方式で論を展開しますが、英語話者はこうしたスタイルをくどくて論理に飛躍がある文として見なす傾向があります。

 

④どのように相手を動かすか、どのように説得するかという技術

最後として、相手との関係をふまえた上で、どのように相手を動かすか、またどのように説得するかという技術も必要です。これは丁寧さの戦略という技術で公教育では教えられていません。例えばある依頼を行う場合、その作業の担当者に頼む場合と、その義務を持たない人に行う場合では表現が異なってきます。作業義務のない相手にいきなりCan you do ....?とメールで書いても”It’s not my job”的な態度であしらわれる可能性が大です。また命令系統や上下関係も考慮に入れる必要があります。こうした配慮のないメールは場合によっては非常に失礼なメッセージとして誤解されることがあります。

さらには、対象となるメール文が業界特有の専門文書(仕様書、設計書、要件定義書、リコール関係の文書など)についてメールでやり取りする場合には、専門用語や業界特有の表現も関わってきます。このように中上級レベルになると、英語そのものよりも、さらに高いレベルの要因も勘案しなくてはなりません。

 

企業の英語研修でライティング力を強化するには

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では上述したこれら二つの段階の学習過程をどのように社員教育に落とし込んでいけばよいでしょうか?第一段階ではアプリを使った文法学習のほか、オンライン英作文サービスを併用するとよいでしょう。オンライン英作文サービスにはいくつかの種類があります。最も初歩的なのは瞬間英作文アプリで、これは完全に自動化されたソフトで、簡単な日本語の課題文が表示され、それを瞬間的に英訳するスマホ用練習ソフトです。基礎力を定着させる必要のある人はここからスタートするのがよいと思います。

さらにレベルが上がり中級以上になると、添削型のオンラインサービスが有効です。ただし人間の手が入るため費用もそれなりに上がります。ある場面での課題作文(この形式はTOEICライティングで出題される形式)や和文英訳(ビジネスメールの英訳練習)などがあり解説もネイティブチェッカーによる英語解説か日本人チェッカーによる日本語解説かが選べるものがあります。

こうしたサービスは非常に学習効果が高く、またネイティブ感覚を分かりやすくつかめるという意味で有効でしょう。ただ第二段階におけるライティングは、情報量管理、語彙の使い分け、論理展開とパラグラフィング、丁寧さの戦略の基準・指針とそれに対応した英文表現、そしてその業界特有の専門文書には、アプリやオンライン添削が対応していないため、こうした側面も含めてライティング力の強化を図る場合には、研修企業による人を介した専門のライティング研修コースをプログラムに組み込むのがコスト、効果の面でも有効性が高いと考えられます。

 

執筆者:鈴木武生 Ph.D.
株式会社アジアユーロ言語研究所代表取締役。会社HP: https://asiaeuro.org

早稲田大学および跡見学園女子大学非常勤講師。(株)日中韓辭典研究所言語学顧問。さくらリンケージインターナショナル社シニアコンサルタント。

商社勤務後,翻訳・通訳者、漢英字典編纂者を経て独立し,アジアユーロ言語研究所を設立。翻訳・通訳業務,多言語辞書編纂,データ処理,検索エンジン開発を行うとともに,大手外資系メーカーのアジア太平洋地区ビジネス開発を支援。また企業向けスキル研修プログラム(英語,中国語,異文化理解など)の開発と実施,ならびにグローバル人材研修・開発のコンサルティングを行う。

「海外経験のない一般的な日本人が、外国語能力を身に付け、外国人と自然なコミュニケーションが図れるようになるためには、一体何をどのように実践したらよいのか、またどうすればそうした学習者を支援できるのだろうか」という思いで設立。企業向け語学研修・異文化研修を中心に、日系・外資を問わずあらゆる業種の企業に対して、学習者の語学力向上をサポート。
東京大学総合文化研究科修了(言語情報科学専攻),言語学博士。研究対象は英中日台の語彙概念意味論、言語類型論、語用論、構文論。またタイヤル語(台湾原住民族語)のフィールドワークを行う。

著書:「異文化理解で変わる ビジネス英会話・チャット 状況・場面115」 (Z会のビジネス英語)

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