企業での英語テスト導入は、人材育成戦略を検討する目的で行われることが多い。育成したい能力とテストが測る能力が合致していることが重要である。社員に「英語で意見を述べられるようになってほしい」「英語で依頼事項を聞いたら、適切な案を提示して対応できるようになってほしい」といった「ビジネス場面でできること」を増やしてほしいのであれば、TOEIC®Speaking & Writing Testsのような実技型試験を活用するのが適切である。まずはテストを活用して社員の現在の能力を測り、次に目標の達成に向けた研修内容や学習法を検討する。ここでは社員のタイプ別に優先して行いたい学習法を提案する。

 

1.TOEIC®LRスコアが730点未満の社員

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TOEIC®LRスコアが730点未満の社員は、単語知識や文法知識がまだ不十分であったり、速い発話音声を聞き取れない、読むスピードが遅いなど、無意識的に英語を使える「自動化()」が進んでいない状態だ。そのため、単語や文法のインプットをしつつ、スピードに慣れることがまずは大切である。この層の学習者にはTOEIC®LRスコアにもTOEIC®SWスコアにも反映されるトレーニングを推奨したい。TOEIC®Speaking & Writing Testsでは、比較的難易度の低い前半の問題のトレーニングをしていくと、基礎力がついてよいだろう。

TOEIC®スピーキングテストの1つ目のタスクは音読だ。この音読タスクの練習を勧めたい。音読がお手本のようにできるように、よくお手本の音声を聞き、モノマネ音読を行う。

音の連結や音の消失など、文字どおりではない箇所に特に気を配り、まずは1文単位で音源を止めながらリピートしよう。お手本と同じスピードで読めるようになるまで、1文ずつ丁寧にモノマネ練習を行う(リピーティング)。全ての文がスムーズに言えるようになったら、前から文をつなげて順に読み上げていき、慣れたら、お手本音声を流して、声を重ねて一緒に言ってみる(オーバーラッピング)。同じスピードで言えるようになったら、自分の音読音声だけを録音してみよう。録音した音声を確認し、お手本と比較する。異なる箇所がないか確認し、修正し、トレーニングのワンサイクルを終える。自分に厳しくお手本との違いを確認するのがコツだ。

なお、TOEIC®スピーキングテスト用の教材を持っていない場合は、TOEIC®LRテストのPart 4を活用して同じトレーニングを行うことができる。多くのパッセージの音読をこのトレーニングで行い、速く正確に読めるように心がけよう。

音読練習から得られる効果は、発音やイントネーション、リズムが英語らしくなるという話す力が向上するだけにとどまらない。音読を行うことで、今まで聞き取りにくかった、音の連結や音の消失などに意識を向けることができるようになり、自然と英語の発話ルールが身につく。聞いた音を頭の中で文字に変換できなかった人はその変換ができるようになるので、TOEIC®LRテストのリスニングセクションの点数が向上することが期待できる。

また、TOEIC®スピーキングテストの音読タスクはLRテストのPart 4に似た案内が多いので、TOEIC®テストらしい構成の文章にも慣れることができる。音読練習を続けると、息継ぎの場所がわかるようになるため、英語の意味のかたまりの区切りがわかるようになり、結果的に長文読解や長文を聞く力もつく。当然、音読練習に登場する単語で知らないものは音と意味を覚えていくことにもなるため、新しく学んだ単語とLRテストで出会ったら、得点源になる。SWのトレーニングを始めたことで飛躍的にLRの点数も伸びたという話も聞くので、相乗効果のある音読中心の学習にぜひ取り組んでほしい。

※言語習得における自動化(automaticity)とは、繰り返し訓練することによって、無意識に言語に関する知識を活用してアウトプットできるスキルのこと。

 

2.TOEIC®LRスコアが730点以上、TOEIC®SWスコアがそれぞれ130点以下の社員

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この層の学習者は「英語の知識はそれなりにあるけれども、その知識を完璧には使いこなせていない」層だ。この層は大きく分けて、2タイプにわかれる。


A: 時間が足りず、最後まで終わらない学習者

B: 全てのタスクを終えているが、話し方・書き方の構成に問題があったり、言い間違い・書き間違いが多くて高く評価されない学習者


どちらのタイプでも、試験慣れをしていくと自分の能力を最大限に発揮できるようになり、TOEIC®SWスコアは140点程度になるだろう。この層が優先的に行いたいのは「特に苦手なパートを作らない」ことだ。まんべんなく本来取れるはずの点数を取れるように学習していくことで、バランスよく力が付くだろう。

スピーキングにおいてもライティングにおいても、多くを述べなくてはいけない場面で、どうしてよいかわからなくなるという人がいる。そんな人は、まずは全体像を伝えてから、詳細について述べることを意識するとよい。これはビジネスにおいても同じだ。何について話しているかの総括をしたうえで、詳細を述べたい。

例えば、写真の描写問題であれば「これは人々がレストランで食事をしている写真だ。4組のカップルがおり、右下にはボトルを持ったウェイターがいる。右上のテーブルに座っている男女は……」のように、どのような写真なのかやどんな人物が写っているのかの概要を話したあとに、細かい描写をするようにトレーニングをしよう。話すとき、書くときにおいて、この点を考慮して文を組み立てれば、「解決策を提案する」ことも「意見を述べる」ことも整理してできるようになってくる。

3.TOEIC®LRスコアが730点以上、TOEIC®SWスコアがそれぞれ140点以上の社員

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この層の学習者は「英語の知識も使う力もそれなりにある」層の学習者。すでに基礎力のある人にはぜひ、TOEIC®テストの運営元であるIIBCの“IIBC AWARD OF EXCELLENCE”を受賞できることを目指してほしい。IIBCはLRテストが800点以上(リスニング375点以上、リーディング425点以上)、かつTOEIC Speaking & Writing Testsのスピーキング160点以上、ライティング170点以上を同年に取得した人に“IIBC AWARD OF EXCELLENCE”(記念品付き)を送付している。4技能をバランス良く磨き上げるために目標とする、よい指標だ。


詳細: https://www.iibc-global.org/toeic/pr/iibc_award_of_excellence.html


140点取れていれば、基本的には全てのタスクがそれなりに最後まで終わっているはずだ。より高得点を目指すためには、スピーキング、ライティングを問わず、述べていることの妥当性と論理的構成について改善策がないか意識するとよい。

実はTOEIC® Speaking & Writing Testsで満点が取れないネイティブスピーカーもいる。これは英語知識が不足しているからではなく、説得力のある構成と内容でタスクに望めていないからである。高得点を得るためには、まずは明確に意見を述べ、それを詳細に説明し、事例などを提示して具体化することを徹底しないといけない。適切な接続副詞を使いこなせるかも重要だ。TOEIC® Speaking & Writing Testsの後半にある「解決策を提案する問題」「意見を述べる問題」は多くのスピーキングテストにあるので、さまざまな教材が役立つ。例えば英検1級対策の教材を活用してもいいだろう。できるだけ幅広い視野でさまざまな観点からものごとについて語るトレーニングをしていくことが高得点へとつながる。

 

4.自習 vs. 講師の指導

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語学学習で重要なことは量と質を高めること。同じ30秒発話権を与えられた場合、流暢に話せる人のほうが多くを言えるのは当然である。つまり流暢さは発話量に直結しているので、どんどんと英語が出てくるトレーニングが大切だ。しかし、質が悪いとせっかく発信している情報が伝わらない。例えばAさんは10秒間で文を5つ述べたとして、そのうちの3つが語順も時制も単語の用法も間違っていたとしたら、発話のうち2文だけしか伝わらない。反対に、Bさんは10秒間に2文しか言えなかったとしても、その2文が完璧であれば、AさんもBさんも伝えられたことは同じだ。このように、アウトプットにおける量と質のバランスが非常に重要なのだ。

書籍、アプリ、e-learningなどを活用した一人でのアウトプットトレーニングは流暢さとアウトプット量を上げるために必要だ。スムーズに英語をアウトプットできるようになるためには、たくさんのアウトプット機会を作り、練習を続けるよりほかない。教材を決め、その中のさまざまな設問に対応する練習を繰り返し行うとよい。問題数をたくさんこなすこと。そして、各問題がスムーズにできるようになるまで繰り返し何度もチャレンジすること。これらのトレーニングでTOEIC® Speaking & Writing Testsのタスクに対応する能力は高まる。

一人で取り組みにくいのが質の向上だ。そこで、質を高めるために講師の支援があると心強い。学習者は自分の間違いになかなか気づけないため、講師のレッスンを受けられる場合は、細かい点も含め、明示的な訂正をしてくるように依頼するとよい。指導法について学んでいる講師は、さまざまな理論を学んでいると思われる。学習者の間違いの訂正方法は大きく分けて「明示的なフィードバック」「暗示的なフィードバック」があり、講師によって、好みがある。


暗示的なフィードバック」とは、よく子育て中の大人が小さな子と話すときに

子: まだ、きないね。
親: そうね、まだ【こ】ないね。

といったように、自然な会話の流れを損なうことなく正しい表現を示す方法である。

対して、教室内で聞かれる「明示的なフィードバック」

講師:「来る」は変則的な変化をするカ行変格活用なので、未然形は「こ」です。よって「こない」と言います。

といった解説的なフィードバックだ。このようなフィードバックができる講師であれば、学習者は間違いの理由と共に、正しい形を学ぶことができるので、明示的なフィードバックを活用したレッスンを依頼するほうがいいだろう。全ての英語講師がこのような指導法に慣れているわけではないので、対応可能かの見極めも大切である。

 

まとめ

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TOEIC® Speaking & Writing Testsは社員育成の指標として活用するのに有益な試験である。社員の4技能のバランスにより研修対象者をグループ化し、どのような研修が適切かを検討するのが望ましい。書籍、アプリ、e-learningなどを活用した学習はアウトプット量を増やすこととアウトプットスピードを上げることを意識してトレーニングをするとよい。講師が行うレッスンも併用する場合は、レッスンをアウトプットの精度(単語の用法、文法、話の構成)を磨き上げるための時間として考え、講師に明示的なフィードバックを依頼することを勧めたい。

 

TOEIC®SW試験について、目標設定については、下記ブログをご覧ください。

「ビジネスで戦力となる英語力を見極める TOEIC®SW試験とは」

ビジネスで戦力となる英語力を育成する TOEIC®SW目標設定

 

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執筆者:江藤 友佳(えとう ゆか)
Y.E.Dインターナショナル合同会社CEO 

クレアモントマッケナ大学卒業後コロンビア大学大学院ティーチャーズカレッジで修士号を取得。英語教授法について大学時代に故ピーター・ドラッカーの授業を受け、組織開発に興味を持ち、PwCコンサルティングに入社。SCM部門の配属からHR部門に異動できず、人材育成に関わることもできる研修業界へ転職を決意。株式会社アルクで教育教務主任として多くの教材作成や企業研修、教員研修を担当した後に、楽天様で英語化プロジェクトのco-leaderとして社員教育に従事。英語教育事業部の立ち上げ支援後に独立し、現在は教材制作の下請けやアドバイザリーサービスを提供している。

 

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