ただでさえ外国語が苦手とされる日本人にとって、さらに追い打ちをかけるのが英語と中国語の発音の難しさです。特にアメリカ英語は日本語にないr音が強調されるので、舌の動かし方がダイナミックで忙しく、コツをつかむまでにはちょっとした練習が必要です。

これに輪をかけて難しいのは中国語(特に北方アクセント)で、r以外にも複数のそり舌音が存在し、また一部日本語に存在しない母音もあります。おまけに、その上に声調がかぶさるので日本人初学者にとっては大変なことこの上ありません(発音が難しいとされるアラビア語、ロシア語、フランス語、デンマーク語などと比較してもおそらくはかなり難しいのではないでしょうか)。

中国語の癖とは?

中国語勉強言語はそれぞれ独自の癖があります。例えば欧米言語は、まず文法や活用をしっかり押さえないと先に進めないという特徴があります。日本語は発音と会話は比較的簡単ですが、読み書きが難しいという特徴(文字種の多さ、音訓読みの区別、送り仮名、複雑な人名漢字の表記と読み)があります。

では中国語はどのような癖があるのでしょうか?初級に関する限りですが、日本人にとって文法は押さえやすいものの、何事も学習が「音声に始まり音声に終わる」という性質を持っています。そのため、初学者にとっては、「とにかく音声を押さえないと会話にならないのだが、その会話の練習を積まないと発音が上達しない」という悩ましいジレンマがあります。

日本人が難しい点として、まず有気音(p, t, k)と無気音(b, d, gなど)との区別、zh, chi, sh, rのそり舌音、zi, ci, siの母音、yu, ju, quなどの母音[ü]が挙げられます。またnとngの区別も重要ですが、日本人にとって少々練習が必要になります。そのほか声調(4声)も字ごとに一つ一つ覚えていく必要があります。

しかしひとたび音声面をマスターしてしまえば、ちょうどカードゲームのUNOのように、「小」→「小+学」→「学+生」→「大+学生」→「生+活」→「活+動」のように、その後ろに新たな字を付け足すことで、どんどん語彙が増やすことができます。中国語の文法は欧米諸語のようなうるさい決まりが少ないので、ここまでくれば練習量に比例してどんどん会話力を伸ばすことができます。

 

中国の発音練習法

中国語本練習法としては、まず音節表の仕組みを十分理解することが必要です。左側縦が声母、上横列が韻母になり、縦×横で405種類の音の組み合わせがあります(とはいえすべてを常用するわけではなく、一部はあまり使われません。また音声パターンの違いも規則的なので覚えやすいという利点があります)。

<第一段階>

まず第一段階として、有気音と無気音の区別、そり舌、日本語にない母音の3点を意識しながら丁寧に音源に合わせて発音練習をしてください。実際には何かの字を読みながらの練習になるので、この上に声調がかぶさることになります。

このレベルでは、単漢字のピンインを見たら音声がぱっと浮かび、また音声を聞いたらピンインがぱっと浮かぶようになるまでピンイン⇔音声の訓練を行います。これは、「ピンインを見た後、少し考えたら音声が思い出せる」というようなレベルでは生ぬるく、いつ何時でもオートマチックに反応できるまで訓練する必要があります。まずは漢字を介在させないで行ってください。というのも漢字があると日本人は「なんか分かったような安心感」を抱いてしますからです。これはまったく別の言語であると意識することが肝要です。多くの人が挫折するのはここでの練習が手ぬるいからです(厳しいようですが、あとで中級以降実力を急上昇させるための投資または貯金と考えましょう)。

<第二段階>

第二段階は、ピンイン&音声&漢字というトライアングルの中で、ある入力に対して、ほかの二つが瞬時に分かるようにするレベルです。例えばyúを見て「鱼」が瞬間的に浮かび、かつ声調とともに正確に発音ができる。または「鱼」見てが瞬間的にyúが浮かび、かつ声調とともに正確に発音できる、という具合です。

またその発音を瞬間的に発音できていたなら、このレベルの練習は終了です。このプロセスも非常に退屈かつ面倒なので、多くの人が「適当に流して」しまうのですが、ここで適当に流すとそのあとまずついていけなくなります。キーワードは「徹底的な瞬発力練習」です。

<第三段階>

第三段階は、「小鱼儿」xiǎoyúrや「活动」huódòng のような複数漢字からなる語の発音練習に入ります。注意しなければならないのは、この段階で気をよくして、どんどん文法や読解などを先に進めてしまうことです。中国語の文法や読解は、漢字が読める日本人にとってそれほど難しいことではないので先に楽に進めるような気がして楽しくなるのですが、その間に登場した語彙については、まだ音声的な訓練は完全に完了していないため、ある程度先にすすんだ段階で、「あれっ?全然聴き取れないし、全然通じない」という状況が簡単に出現します。こうした漢字の罠に陥る人が少なからずいます。

複合語を使って発音練習をする場合、前の漢字の声調と後ろの漢字の声調をうまくスムーズに繋げなければなりません。4声×4声で単純計算で16パターンの音形パターンがあります。ピンインの発音に気を取られると声調がなおざりになり、声調に気を取られるとピンインの正確な発音がなおざりになります。しかも前後の声調がシームレスでスムーズにつながっていなければなりません。またr化についても舌のなめらかにコントロールさせるには少々時間がかかるかもしれません。

この段階の練習は、街を歩きながら目に入った看板を中国語読みする練習をお勧めします(大きい声でやっていると驚かれるので注意しましょう)。これは楽しみながら、かつ継続的に無理なく行えるので語彙も覚えられて一石二鳥です。その際にはすぐに漢字から読みを調べられる辞書が必要ですが、スマホであれば、簡体字(もしくは繁体字)の手書き入力モードを選択・設定できるので便利です。また自宅でも毎回、教材の音源に合わせた音読やシャドウイングの練習も欠かしてはいけません。

<第四段階>

第四段階は、音と概念の間で瞬間的に反応する力を養う練習です。音を聞いたらピンインや漢字を介在させることなく、その概念が思い浮かぶ、またその概念が思い浮かんだらその発音ができるという瞬間的な反応力です。この練習の効果は、どのくらい人間相手にその語彙を発音したかで決まります。会話力があるかどうかとは無関係で、単に練習量に比例します。文法や文章は下手でも気にせず、出てくる単語一つ一つを正確な発音と声調で発音するよう心掛けてください。

 

「音が口をついて出てくる」まで、繰り返し練習

中国語話すこれを繰り返していると、ある日突然「音が口をついて出てくる」「音を聞いて意味が分かる」という瞬間が訪れます。これは個人差と練習量にもよりますが始めてから6か月から2年くらいの間にやってきます。

この段階になったら実際の会話をどんどん実践して語彙を増やしていくことになります。その中で各字の声調を、文章全体の中で相互になめらかに繋げていく練習になります(実際、会話において発音と声調のどちらが重要かと迫られたら私は声調のほうが重要と答えます)。この力は会話の中でネイティブの話し方を繰り返し真似することで磨かれます。この段階では、あくまで人間相手に練習を行うことが重要であることに留意してください。

 

執筆者:鈴木武生 Ph.D.
株式会社アジアユーロ言語研究所代表取締役。会社HP: https://asiaeuro.org

早稲田大学および跡見学園女子大学非常勤講師。(株)日中韓辭典研究所言語学顧問。さくらリンケージインターナショナル社シニアコンサルタント。

商社勤務後,翻訳・通訳者、漢英字典編纂者を経て独立し,アジアユーロ言語研究所を設立。翻訳・通訳業務,多言語辞書編纂,データ処理,検索エンジン開発を行うとともに,大手外資系メーカーのアジア太平洋地区ビジネス開発を支援。また企業向けスキル研修プログラム(英語,中国語,異文化理解など)の開発と実施,ならびにグローバル人材研修・開発のコンサルティングを行う。

「海外経験のない一般的な日本人が、外国語能力を身に付け、外国人と自然なコミュニケーションが図れるようになるためには、一体何をどのように実践したらよいのか、またどうすればそうした学習者を支援できるのだろうか」という思いで設立。企業向け語学研修・異文化研修を中心に、日系・外資を問わずあらゆる業種の企業に対して、学習者の語学力向上をサポート。
東京大学総合文化研究科修了(言語情報科学専攻),言語学博士。研究対象は英中日台の語彙概念意味論、言語類型論、語用論、構文論。またタイヤル語(台湾原住民族語)のフィールドワークを行う。

著書:「異文化理解で変わる ビジネス英会話・チャット 状況・場面115」 (Z会のビジネス英語)

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