かつてTOEICが初めて登場した時、スピーカーから流れるリスニングテスト音声の速度に多くの受験者が度肝を抜かれました。そして当時、「私は話す・聴くは弱いが、読むのは何とかできる」という言い訳(?)がよく聞かれましたが、実際のところ、当時の新入社員のTOEIC平均は300点代中盤あたりで(筆者の記憶が正しければ)、大半の人にとって、話す・聴くはほぼからっきしだめで、リーディングは辞書をひきひき数百ワードを解読するのがやっとというのが実情でした。

以来40年以上の月日が経ち、L&R受験者の平均スコアは531点(2020年)まで伸びました。興味深いことに、リスニングとリーディングのスコアを比べると、まだ平均点が今より低かった数十年前ではリーディングスコアがリスニングスコアを上回る傾向があったのに対して、平均点が上昇した近年ではリスニングスコアがリーディングを上回る傾向があります。

これはどういうことでしょうか?実は外国語学習においては最終的にはリスニングのほうがリーディングよりも学びやすく、リーディング力を伸ばすには、しっかりとした文法基盤に加え、十分な語彙と表現、そして内容を把握する知的枠組みが必要となるのです。文字文化というのは人類の歴史上、音声コミュニケーションに比べ比較的新しく現れたものであり、記録文書としての性格を持つものだからです。

リスニング力は、その言語をどれだけ使用し、その言語によるコミュニケーションにどれだけ実際にさらされたかによって大きく決定されると言えます。ですからその言語を実際もしくは疑似的に使用している状況を作り出し、その時間数を増やせば力は自然とついていくものです。

リスニング学習法

22124966「リスニングができないのは個々の単語の発音が聴き取れないからだから音素を徹底して学ぼう」というアプローチがあります。例えばappleの[æ]、や[l]と[r]の違いなど、われわれ日本人が苦手とする発音を徹底して学ぶという方法です。これは間違いではないのですが、日本語式カタカナ発音との違いを押さえ、舌がまえをある程度練習した後は、そこに執着することなくその後のステージに進むべきです。

そのステージとは文単位による音読法です。発音と強弱アクセントをしっかり押さえながら音源に合わせて音読します。新しいテクストを読む際にはかならずこうした音読を行います。

それがある程度できるようになったらシャドーイングも行ってください。これはテクストにある文を見ることなく、音源に合わせて聞こえたままを同時に模倣しながら発音する練習です。これは非常に効果的で続けているとボディーブローのようにじわじわ効き始め、数か月後にはリスニング力がかなり高くなっていることに気づくでしょう。

だだし音読する際には強弱アクセントに注意してください。この強弱アクセントのパターンを真似ることがのちのちリスニング力アップの上で大きなカギとなります。決してカタカナ英語式に発音しないでください。すべての努力が水の泡になります。

また同時に語彙表現を増やすことも重要になります。これは単語だけにとどまらず、特に連語(be interested inのように一定のまとまりを持つ表現)やよく使われる表現(When is the earliest you can deliver? 最速ではいつ納品できますか?)などの文を増やすことです。こうして知っている表現が増えることで、文章全体のうち一定量はすでに聞いたことがある、またはよく知っている文で占められるようになり、聴き取りに集中する部分はわずか一部分にまで減るからです。これは大きな省エネとなります。

次に音声の変化ですが、英語は単語を速く連続して発音すると音声が変化するという現象が起こります。例えばin an hourは連続すると[inannáuər](あえてカタカナで書くとイナンナウアで太字を強く発音)になります。こうした現象が文のそこかしこで起こり、それが(例えばTOEICでは)1分間に160-180語の速度で読まれるのです(ちなみにネイティブが話す速度は160-200語/分、CNNなどのニュースは180語/分程度と言われています)。こうした状況では音声変化の練習をしていなければなかなか歯が立ちません。英語の音声変化の現象には同化、連結、弱化、脱落、短縮などがありますが、ここでは割愛します。詳しくは各市販教材を参考にしてください。

こんな学習法も

22125021最後におまけとして興味のある人には洋楽で英語のリズムパターンを練習するというものがあります。英語曲の歌詞は、会話に見られるリズムパターンをある程度反映させているので(実際には歌詞を読んだ時のリズムパターン合わせてメロディーが付けられていることが多いと思います)、特に初級の人は英語のリズムパターンに慣れるのにはこうした方法が有効と思われます。

 

執筆者:鈴木武生 Ph.D.
株式会社アジアユーロ言語研究所代表取締役。会社HP: https://asiaeuro.org

早稲田大学および跡見学園女子大学非常勤講師。(株)日中韓辭典研究所言語学顧問。さくらリンケージインターナショナル社シニアコンサルタント。

商社勤務後,翻訳・通訳者、漢英字典編纂者を経て独立し,アジアユーロ言語研究所を設立。翻訳・通訳業務,多言語辞書編纂,データ処理,検索エンジン開発を行うとともに,大手外資系メーカーのアジア太平洋地区ビジネス開発を支援。また企業向けスキル研修プログラム(英語,中国語,異文化理解など)の開発と実施,ならびにグローバル人材研修・開発のコンサルティングを行う。

「海外経験のない一般的な日本人が、外国語能力を身に付け、外国人と自然なコミュニケーションが図れるようになるためには、一体何をどのように実践したらよいのか、またどうすればそうした学習者を支援できるのだろうか」という思いで設立。企業向け語学研修・異文化研修を中心に、日系・外資を問わずあらゆる業種の企業に対して、学習者の語学力向上をサポート。
東京大学総合文化研究科修了(言語情報科学専攻),言語学博士。研究対象は英中日台の語彙概念意味論、言語類型論、語用論、構文論。またタイヤル語(台湾原住民族語)のフィールドワークを行う。

著書:「異文化理解で変わる ビジネス英会話・チャット 状況・場面115」 (Z会のビジネス英語)

--------------------------------------------------------------

企業の英語研修におすすめの学習教材とは?(1/2)
企業の英語研修におすすめの学習教材とは?(2/2)
<企業の研修担当者必見>ビジネス英語をマスターするための2つのポイント
<企業の研修担当者必読>英語でのプレゼンテーション成功の鍵
企業向け英語研修~社員のスピーキング力を上げるには
企業向け英語研修~社員のライティング力を上げるには
法人向けビジネス英語電話対応マニュアル

 

Smart Habit Enterpriseの資料ダウンロードはこちら