TOEICスコアとスピーキングの関係
英語学習においてよくある「残念な現実」として、「TOEICのスコアは高いのに英語を話せない」というものがあります。この事実だけを見て、「TOEICは使えない」と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、そこに関連はありません。営業成績が上がらないセールスパーソンに対して、「日本語が話せるのに営業成績が低い」とは思わないでしょうし、「日本語は営業に向かない」とも思わないでしょう。
英語のスピーキング力については、その日本語のスピーキング力で考えてみるとわかりやすいかもしれません。日本語において、現在の私たちのスピーキング力とは、これまで日本語を話してきた結果として身についたものです。これは、スポーツや楽器演奏における上達と全く同じです。野球をした分だけ野球は上達しますし、ピアノを弾いた分だけピアノは上達します。
「TOEICのスコアが上がったのにスピーキング力が上がらない」という場合、どのような学習をしたかがポイントとなります。知識を増やし、スキルを高め、問題を解く練習をすることでスコアは上がりますが、その学習においてスピーキングを取り入れたかどうかが重要です。英語を話していないのであれば、当然、話せるようにはなりません。私は泳げないのですが、いくら泳ぎの知識を学んでも、プールで泳ぐ練習をしないのであれば泳げるようにはならないでしょうし、おそらくこれを読まれているどなたよりもプールに入った回数が少ないと思います。
TOEIC に必要な力とは
私は研修を通して、TOEICスコアアップのために必要な力を3つご紹介しています。それが、「英語力」「情報処理能力」「対策力」です。模試を実施しただけでスコアが上がる方もいらっしゃいますが、それは解くことに慣れたことで正解数が増えただけであって、問題を解くだけで英語力が上がることはありません。もし上がるとしたら、TOEIC受験の2時間で英語力が上がることになってしまいます。問題を解くことは大切ですが、それだけで英語力が上がるわけではありません。
1つめの英語力とは、単語力や文法力などに知識のことで、中長期的な学習が必要です。単語や文法がわかれば「聞く・読む」にプラスにはなりますが、すぐに英語のまま理解できるようになるわけでも、読む速度が上がるわけでもありません。英語のまま理解したり、スピード処理したりするのは、2つめの情報処理能力を高める必要があります。スピード処理能力と言い換えることもできます。英語力が知識であるのに対して、情報処理能力はスキルです。普段から英語を聞いたり読んだりすることで、知識がスキルへと高まってきます。料理にたとえると、レシピを見なくても作れるようになるのが、知識からスキルへの転換です。
そして、この2つの力をテスト向けにチューニングするために必要な力が対策力です。各パート別の対策や、Part 3/4における設問の先読み、さらにリーディングの時間配分などが対策力に当たります。スコアを伸ばすことが目的であれば、以上の3つの力を伸ばせば達成できます。しかし、スピーキングは行っていないため、スコアは伸びてもスピーキング力は伸びることはありません。
TOEICスコアとスピーキング力を同時に伸ばすには?
TOEIC L&Rテストで問われるリスニングとリーディングとは、誰かのスピーキングを聞くこと、また誰かのライティングを読むことです。つまり、リスニングとスピーキングは表裏一体であり、リーディングとライティングも表裏一体です。リスニングしている内容を使うことがスピーキング力に転換され、リーディングしている内容を使うことがライティング力に転換されるのです。
ビジネス英語というと難しく感じるかもしれませんが、ビジネスで使う日本語に「型」があるのと同様に、ビジネスで使う英語にも「型」があります。その「型」を身につけるためのアウトプットトレーニングをする中で、スピーキング力へと高まっていくのです。
TOEIC L&Rテストでは、この「型」の理解が問われている部分も多くあります。たとえば、Part 2(応答問題)では依頼や提案の型のほか、応答の型なども出題されます。Part 3(会話問題)では、問題の伝え方や話の展開の仕方なども「型」として使われており、Part 4(説明文問題)では留守番電話の「型」や会議での伝達の「型」なども頻繁に登場します。Part 7(読解問題)では、Eメールライティングの「型」を学ぶこともできますし、話の展開や問題の提示の仕方、依頼の仕方など、実際の場面で使うことのできる様々な表現を学ぶこともできるのです。
問題を解くだけでなく、本文をビジネス英語の「型」として活用することで、スピーキング力を始め、ライティング力を高めることにもつながり、さらに慣用表現を大量に習得することにもつながります。TOEICを単なる「テスト問題」として捉えるか、または「ビジネス英語の型」が詰まったサンプルとして捉えるかによって、取り組み方が変わり、その結果、身につく知識やスキルも変わってきます。
著者:早川 幸治 氏
株式会社ラーニングコネクションズ 代表取締役
SEから英会話講師へ転身。その後、TOEIC対策を中心とした英語セミナー講師として、これまで大手企業からベンチャー企業まで全国約200社での研修を担当してきたほか、大学や高校でも教える。脳や心の仕組みを活用した学習法を提唱し、上達の本質を英語学習に応用している。高校2年で英検4級不合格から英語学習をスタート。苦手意識を克服した後、TOEIC 990点(満点)、英検1級。著書に「TOEICテスト 書き込みドリル」シリーズ(桐原書店)、「TOEICテスト 究極のゼミ Part 3 & 4」(アルク)、「2カ月で攻略!TOEIC L&Rテスト 730点!」(アルク)など50冊以上。雑誌連載のほか、企業における学習コンサルティング、セブ島留学TOEICプログラム監修、日本語プレゼンテーション(伝える技術)研修も担当。2011年5月から毎日英単語メルマガ「ボキャブラリーブースター」を配信中。
早川幸治オフィシャルサイト:https://kojihayakawa.jp/
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