一般的にTOEIC670~750点の方は、800点突破を目指しているもののそこに到達するのは一つの壁と言われている。今回の記事では、上記スコアの方が今後どのようにして学習を続けていけば良いのか、学会での論文の発表を続けながら、大学や企業向けに英語研修を提供している鈴木武生氏に話を伺った。

このスコアゾーンにいる人は英検で言えば英検準1級程度に相当すると言える。実際の運用能力面でも、「そこそこ会話は通じるかな」という感じを持っている人も多いだろう。
だが反対に「そこそこ通じる」ということは、「現実の運用場面ではまだどうも力不足」であることを実感させられることも多いと言える。ではどのような面が力不足なのだろうか?
まず「話す・聴く」では多くの場合次のような状況であることが多い。



・挨拶や会話の出だし、決まった会話(家、仕事の概要、趣味など)なら特段不自由を感じない。
・ネーティブ同士の会話は聴き取れず、またリズムにも全くついていけない。
・業務的内容の説明は何とかなるが、食事中の会話など雑談が苦手。
・会議(テレビ会議は特に)では最初はよいが相手が長く話している場合、または途中で知らない単語が出てくると集中力が途切れて、以降理解度が格段に落ちる。
・初めて説明する事柄について話す場合、脳内での翻訳に苦戦するため話がしどろもどろになる。
・込み入った事情は難しい内容を説明する場合、相手が「なるほど」と首を縦に振るような明快な説明ができず、不可解な相手の表情を見ながらストレスがたまる。
・ジョークが分からない。



ここでまず問題になるのはリスニングにおける「スピードの壁」である。スピードの壁を克服するには音読やシャドーイングによる音変化の練習が必要になる。音変化は、例えば[p], [t], [k], [ð]のような破裂音が二つ重なると前の破裂音が消える(または弱化する)という法則である。これはat the pointやtop playerの場合atの/t/が消え、topの/p/が消える。


 次の問題は「会話パターンの壁」である。会話には一定のパターンがあり、随所にあるポイントでイディオムや定型表現が用いられる。これに従って会話を進める必要があるのだが、そもそもこのパターンは日本語と異なるため、簡単なストーリーベースの会話テキストで練習し、それを対面ベースで実践することで、こうした会話パターンにできるだけ多く慣れておくことが重要になる。会話パターンとは、例えば日本語で言うならば、相手は「ねえ、どうする?」と言った場合「そうねえ、困ったなあ。じゃあこうするのは?」という回答は自然だが、「私は今考え中」という回答は不自然であろう。こうした会話パターンはNHKラジオの英会話や海外のフレーズブック(Perfect Phrases ESL Everyday BusinessやPerfect Phrases for ESL Conversation Skills)などがおすすめである。オンライン英会話も可能ではあるが、このすでに文法を超えてしまっているレベルでは、ネーティブ講師によるもののほうが効率的である。


 一方「読む」技能では語彙増強と語順読みが重要になる。語彙増強は単語、連語、イディオム(慣用句)にまたがるが、ある程度までは単語帳で学んだあと、700点以降はできるだけ読み物の中で覚えていくとよい。
 語順読みの練習も必要である。これは出てきた順にSやVやOなどの構造を意識しながら語順通りに理解していく練習である。これができるようになると一気に読むスピードがアップする。


 ライティング技術については、自習による習得が難しい。それはこのプロセスが、入力(覚える)、出力(書く)、フィードバック(なぜ自分の書いた表現が間違いか、不適切なのかを説明してもらう)の三つが重要だからである。特に最後のフィードバックは大切である。しかもビジネスライティングの場合、テクニカルライティング(技術文書)も含まれる場合がある。やはり十分な経験と知識を持った講師のいる学校に行くことをおすすめする。

 

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執筆者:鈴木武生 Ph.D.
株式会社アジアユーロ言語研究所代表取締役。会社HP: https://asiaeuro.org

早稲田大学および跡見学園女子大学非常勤講師。(株)日中韓辭典研究所言語学顧問。さくらリンケージインターナショナル社シニアコンサルタント。

商社勤務後,翻訳・通訳者、漢英字典編纂者を経て独立し,アジアユーロ言語研究所を設立。翻訳・通訳業務,多言語辞書編纂,データ処理,検索エンジン開発を行うとともに,大手外資系メーカーのアジア太平洋地区ビジネス開発を支援。また企業向けスキル研修プログラム(英語,中国語,異文化理解など)の開発と実施,ならびにグローバル人材研修・開発のコンサルティングを行う。

「海外経験のない一般的な日本人が、外国語能力を身に付け、外国人と自然なコミュニケーションが図れるようになるためには、一体何をどのように実践したらよいのか、またどうすればそうした学習者を支援できるのだろうか」という思いで設立。企業向け語学研修・異文化研修を中心に、日系・外資を問わずあらゆる業種の企業に対して、学習者の語学力向上をサポート。
東京大学総合文化研究科修了(言語情報科学専攻),言語学博士。研究対象は英中日台の語彙概念意味論、言語類型論、語用論、構文論。またタイヤル語(台湾原住民族語)のフィールドワークを行う。

著書:「異文化理解で変わる ビジネス英会話・チャット 状況・場面115」 (Z会のビジネス英語)

 

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