前回のコラム(学習行動促進に「罰」がおすすめできない理由)では、失敗や未達成をくり返すと無力感を学習し、行動・努力しなくなってしまう現象(学習性無力感)を説明しました。今回のコラムでは学習性無力感についてもう少し詳しく説明し、回避するための方法を検討していきます。

 

学習性無力感の影響


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学習性無力感は行動が消去するだけではなく、抑うつのような症状を併発することも指摘されています(Seligman, 1975)。たとえば、日常的に強いストレスを経験していると抑うつ症状が発生するケースは広く知られていますよね。これはストレスが回避できないことにより、認知的・情動的にも影響が生じて無気力状態を引き起こしていると考えると、学習性無力感と抑うつの関連性がわかるかと思います。

学習性無力感が生じる主な理由として「非随伴性認知」と「統制不可能性認知」があげられます。非随伴性認知とは、「自分の行動と望ましい結果が結びつかない」と認識することです。そして統制不可能性認知とは、「自分では環境・状況をコントロールすることができない」と認識することをさします。

 

学習性無力感により勉強をやめてしまうケースを例に考えてみましょう。勉強(行動)しても成績(経験)がまったく上がらない状況が続くと、勉強と成績の結びつきを低く見積もり(非随伴性認知)、自分では成績を上げることができないと認識し(統制不可能性認知)、結果的に勉強の自発頻度は消失してしまいます(行動の消去)。このような「認知の歪み」によって学習性無力感が生じると考えられます。

そして学習性無力感は、行動の消去だけではなく他にも障害を生じさせます。学習性無力感が生じると、統制可能な他の課題に対しても統制不可能と認知し、成功可能性を低く見積もるようになり、挑戦的な行動が減少していくと指摘されています(認知の障害)。さらに情動が不安定になり、抑うつや不安といったネガティブな感情が増し、悲観的になりやすくなると指摘されています(情動の障害)。このように、学習性無力感を経験してしまうと、行動が消去してしまうだけではなく、認知の障害や情動の障害が生じてしまいます。

さらに厄介なことに、学習性無力感は他者にも伝播します(Peterson, Maier & Seligman, 1993)。人間は自分自身が体験しなくても、他者の様子を観察・模倣することでも行動や認知が強化されます。これを社会的学習(Bandura, 1977)といいます。社会的学習によって、他者の統制不可能な状態を観察することで、学習性無力感を獲得してしまう可能性があります。


学習性無力感は回避できる?
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このように学習性無力感は多くのリスクになりうる現象です。それではどのように学習性無力感を回避すればよいのでしょうか。

第一に、行動の成果を体感しやすい成果指標を整えることです。先述のとおり、学習性無力感の原因のひとつは行動と成果の結びつきを実感できない(非随伴性認知)ことにあります。例えば「勉強してもテストの成績が上がらない」のであれば、勉強量が成果として反映しやすいテストに変更することで、行動と成果の結びつきが実感できるようになるでしょう。また、テストの成績以外の成果指標、例えば勉強量に応じたご褒美を用意することで、勉強行動が報酬と随伴するように設定することもできます。

第二に、認知の歪みを修正することです。「行動が成果に影響しない(非随伴性認知)」「自分では成果をコントロールすることができない(統制不可能性認知)」といった認知をもつことが学習性無力感を生じるのであれば、そのような認知を修正することが必要でしょう。Dweck(1975)は、「悪い成績は、努力不足のせい」と原因を帰属させることで、子どもの無気力感と学習成績が改善されることを示しました。つまり「努力(行動)すれば悪い成績を回避できて、良い成績がとれる(成果)」と、行動と成果の随伴性認知を高めるよう働きかけることで学習性無力感を解消したといえます。

 

また桜井(1991)は、学習者の潜在的な能力を認めた上で努力を促すフィードバックを行うことが、結果の統制可能性認知を高めると述べています。このように「努力(行動)は無駄じゃない、効果がある」と認識や信念を修正することが学習性無力感の回避には有効です。

第三に、自己効力感を高めることです。自己効力感とは、「ある行動・成果を遂行できる」と自分の可能性を認識する度合いをさします(Bandura,1977)。自己効力感が低いと行動が消極的となり、困難が生じるとすぐに挑戦を辞めてしまいがちになります。一方で自己効力感が高いとパフォーマンスや行動持続性も高くなります。自己効力感をもっとも高める要因は「自身の成功体験」です。つまり自己効力感は学習性無力感とは逆で、成功を体験して行動と成果の随伴性認知が高まった状態といえます。したがって、例えば勉強によって学習性無力感が生じた場合、勉強以外の行動(例えばスポーツや趣味)で自己効力感を獲得できれば、統制不可能性認知が修正され、学習性無力感解消につながる可能性があります。

また、自己効力感は学習性無力感と同様に、社会的学習が可能とされています。つまり、他者の成功体験を観察すること(代理強化)や、他者からの「言語的説得」によっても自己効力感が高まります。したがって、学習性無力感は周囲の人の働きかけによって軽減が可能といえます。

児童・生徒に「やる気がない」ように見えるとき、もしかすると失敗体験からの学習性無力感によるものかもしれません。自力での回復が困難なときは、周囲からの働きかけが重要になります。成果の実感を生みやすい環境を用意したり、認知の歪みを修正したり、自己効力感を獲得させることで、適応的な状態へと導きましょう。

【引用文献】
Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191–215.
Dweck, C. S. (1975). The role of expectations and attributions in the alleviation of learned helplessness. Journal of Personality and Social Psychology, 31(4), 674–685.
Peterson, C., Maier, S. F., & Seligman, M. E. P. (1993). Learned helplessness: A theory for the age of personal control. Oxford University Press.
桜井茂男(1991). 子どもの動機づけに及ぼす教師の激励の効果 心理学研究, 62, 31-38.
Seligman, M. E. P. (1975). Helplessness: On Depression, Development and Death. San Francisco, CA: Freeman.

 

 

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執筆者:丹野 宏昭(タンノ ヒロアキ) 
筑波大学大学院 人間総合科学研究科 心理学専攻(博士)
社会調査士。博士号取得後、東京福祉大学心理学部にて講義および研究に従事。また、学外活動として社会人を対象とした「ゲームを用いたコミュニケーショントレーニング講座」も担当。

主な研究:
・ゲームを用いたコミュニケーションスキルトレーニングに関する研究
・対人関係と適応に関する研究
・対人関係ゲームによる小中学校のクラス作りと不登校抑制のプログラム研究 

執筆:『人狼ゲームで学ぶコミュニケーションの心理学-嘘と説得、コミュニケーショントレーニング』(書籍)

 

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