前回のコラム「 リスニング・スピーキングが苦手な日本人 その理由は?」では日本人がリスニングやスピーキングを苦手とする理由について書きました。今回はリスニング能力を向上させるための学習法と関連研究についてお伝えします。

 


ディクテーション
22066702まず紹介する学習方法はディクテーション(Dictation)です。ディクテーションとは、英語の音声を聴いて文字に書き起こす学習方法です。この学習方法を繰り返すことで英語音声のインプットの自動化を促進し、リスニングの負荷を下げることが可能となります(飯野,2013)。

杉浦・竹内・馬場(2002)は大学生を対象に、毎週の授業で合計13回のディクテーション学習を実施し、効果を検証しました。その結果、ディクテーション学習によって学生のリスニング能力が向上していたことを明らかにしました。また杉浦ら(2002)は授業などでディクテーションを活用するメリットとして以下の3点をあげています。

①教材準備が簡単:実際の発話とそれを書き起こしたテキストさえあれば、テキストに空欄を作るだけで教材を準備することができる。

②指示が簡単:「聞いた発話を書きとる」と単純な指示でよい。

③解答照合が簡単:元の文章が唯一の正解なので、不慣れでも間違いなく回答を照合できる。

このようにディクテーションは授業などの対多人数を対象とした場面でも簡単に活用できるリスニング学習法です。


シャドーイング
22349175次に紹介する学習方法はシャドーイング(Shadowing)です。シャドーイングとは、英語を聴きながらそれを真似して発音する学習方法です。

 

前回のコラムでも書きましたが、日本人がリスニングやスピーキングが苦手な理由のひとつは、日本語と英語のリズムやアクセントの違いにあります。シャドーイングによってネイティブスピーカーの発話を真似することで正しい発音や英語のリズムを身体で覚えることが期待できます。またディクテーションと同様に、インプットの自動化を促進することでリスニングの負荷を下げることが可能となります。

シャドーイングは特に英語の習熟度が低い方に有効であるという知見も多くあります。小島・太田(2010)は大学生を対象に、毎回の英語の授業内で約7ヶ月間計48回、20~30分程度のシャドーイング学習を行わせ効果を検証しました。すると約67%の学生のリスニングスコアが伸びており、この結果から小島・太田(2010)は習熟度の低い学習者にとってシャドーイングはリスニング能力向上に有効という見解を示しました。

 

また、濱田(2009)も高校生を対象にシャドーイング学習の効果を検証したところ、易しいテキストを活用してシャドーイングを行った群のリスニングスキルが伸びていたことが明らかになりました。

さらに、シャドーイングを行うことでリスニングに対する苦手意識や不安が低減されるメリットもあります。新本(2021)は日本人大学生にシャドーイング学習を導入したところ、リスニング不安が軽減され、またTOEIC準拠のリスニング問題(Part1,Part2)のスコアも上がったことを報告しています。

これらの結果をふまえると、シャドーイングは英語学習の最初の時期に行うと特に効果が見込めるといえます。

それではなぜシャドーイングがリスニング能力の向上に有効なのでしょうか。門田(2011)はシャドーイングの効果を2つあげています。1つは耳からの音声インプットと目からの視覚インプットの組み合わせにより、その言語の音のイメージ(音韻表象)を形成できるようになる効果です。つまり聞いた音声と読む文章の結びつきを強めることで、音声のイメージを強固に形成できるようです。

 

2つめは学習者の発音スピードが上がることで、使われている語句や構文の記憶が良くなる効果です。門田(2011)は反復(リハーサル)の速度が向上すると記憶容量が拡大すると述べており、これもまたリスニング能力の向上に重要といえます。


ディクテーションとシャドーイングはどちらが有効?

ここまで2つの学習法を紹介してきましたが、どちらの学習法のほうが優れているのでしょうか。ディクテーションのほうが効果はあるという研究(ex. Kojima & Ota, 2012)もあれば、シャドーイングのほうが効果はあるという研究(ex. 玉井, 1992)もあります。さらには両者とも一定の効果があるという研究(ex. 飯野, 2013)もあります。

飯野(2013)はディクテーションとシャドーイングを学習指導で使う際の利点と欠点を以下のようにまとめています。

 

丹野さん-1
以上のように授業やレッスンなどでディクテーションやシャドーイングを用いるときは、2つの違いをよく理解した上で活用することが重要といえます。いずれの方法も英語リスニングの負荷を下げ、苦手意識を取り除く効果が期待できますので、ぜひ学習の初期から試していただきたいです。

 

 

<引用文献>
濱田 陽(2009). テキストの難易度がシャドーイングトレーニングの効果に与える影響とリスニングメタ認知ストラテジーへの影響, 第二言語, 8, 27-49.
飯野 厚(2013). 英語教育におけるリスニング、シャドーイング、ディクテーションの関係, 法政大学多摩論集, 29, 67-81.
門田 修平(2011). インプットをアウトプットにつなぐシャドーイング:理論と実践の連携, JACET中部支部起用, 9, 41-55.
小島 さつき・太田 聡一 (2010). 学生の英語聴解能力におけるシャドーイングトレーニングの効果に関する実証的研究, 宮城學院女子大學研究論文集, 110, p.47-62.
Kojima, S. & Ota, S. (2012). Shadowing, Dictation and Reading Aloud: Which is Effective. JACET Tohoku TEFL , 4 , 29 40.
新本 庄悟(2021). Shadowing to Alleviate Listening Anxiety and Facilitate the Development of Bottom-up Skills, 英語教育研究, 44, 101-109.
杉浦正利・竹内彰子・馬場今日子(2002). リスニング能力養成のための自律学習:ディクテーションの効果, 言語文化論集, 2, 105-120.
玉井健(1992).follow-upの聴解力向上に及ぼす効果およびfollow-up 能力と聴解力の関係STEP BULLETIN Vol.4, 日本英語検定協会, 48–62.

 

科学的根拠に基づく英語学習(1)学習観の違いが英語学習の成果に影響する

科学的根拠に基づく英語学習(2) リスニング・スピーキングが苦手な日本人 その理由は?

 

 

株式会社WizWe WizWe総研 研究員 丹野 宏昭執筆者:丹野 宏昭(タンノ ヒロアキ) 
筑波大学大学院 人間総合科学研究科 心理学専攻(博士)
社会調査士。博士号取得後、東京福祉大学心理学部にて講義および研究に従事。また、学外活動として社会人を対象とした「ゲームを用いたコミュニケーショントレーニング講座」も担当。

 

主な研究:
・ゲームを用いたコミュニケーションスキルトレーニングに関する研究
・対人関係と適応に関する研究
・対人関係ゲームによる小中学校のクラス作りと不登校抑制のプログラム研究 
執筆:『人狼ゲームで学ぶコミュニケーションの心理学-嘘と説得、コミュニケーショントレーニング』(書籍)

 

 

 

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