日本企業の海外進出をサポートする株式会社ジェイシーズの田中秀彦氏に、ご自身の海外駐在歴20年に渡るご経験をお話しいただくシリーズ3回目。今回は、「言語を学ぶということ」をお届けします。

 

社内英語教育について

746685 (1)1991年にドイツ駐在を終えて、日本に戻り貿易部門に着任し、中近東営業と、その部門のスタッフ教育担当を任命されました。教育のポイントとして、製品知識の向上は勿論、グローバルメーカーとして、世界に通じる英語力のアップを目標に設定しました。

 

英語力の向上プログラムを導入するにあたり、まずは現状把握を目的に、部員にTOEICを受験してもらうことにしました。TOEICが今ほど一般的でなかったこともあり、英語に対するアレルギーが強い高齢者を中心に、非常に強い抵抗もありましたが、上司の社内力学などにも頼りながら、全員が会社で試験を受けるに至りました。

 

その結果に基づき、部員を三つのランクに分け、それぞれのレベルに合わせた教育方針を打ち立てました。初級は読み書きの上達、中級は会話に慣れること、上級はより深掘りしたディベートの実現を目的に、強化プログラムを実施しました。

 

一人の脱落者もなく、一年後に実施したTOEICの試験では、ほぼ全員の成績が上がる成果が得られました。英語力の重要性が理解されて、その強化を図るためのプログラム導入が受け入れられ、皆で頑張る意思が共有出来たことにより、部門全体のムードが格段に向上したのが、最大の副産物であったと考えます。

中国語を学び感じたこと

 

中国語サムネ

日本勤務が5年経過したところで香港赴任を命じられました。香港を拠点に中国全土の販売・サービス網の確立がミッションとして与えられたため、中国語を赴任前に学ぶよう上司に指示されました。

 

ご存じかも知れませんが、中国には七大方言があり、方言で話すと他の地方の人には全く通じないこともあるようです。普通語(俗に北京語)が標準語で、中国全土で通じますが、テレビでは普通語が苦手な人向けに字幕が表示されます。そんな基本的な事も知らず、中国語の専門学校での受講を始め、香港赴任までの3か月間、毎朝1時間、出社前に通いました。わずか3ヶ月の勉強では当然限界はありますが、限られた中でも学んだすべての言語能力を最大限活用し、繰り返し使うのが語学の上達に重要だと体感しました。

赴任した1996年の中国では海外企業の独資進出が出来なかったため、香港から代理店に依頼して商売をしていました。香港に駐在した6年半で23省・5自治区・4直轄市・2特別行政区、計34の一級行政区を初め様々な都市を訪問しました。東西5,000km、南北5,500kmの広大な国でありながら言葉が一つに統一され、時差が無いその統率力には物凄いエネルギーが注がれているのを感じました。民族、文化共に多様で、例えば東の端にあるウルムチに行くと、明らかに人種が異なり、交通標識もアラビア文字に似たウイグル語が標準語と併記されていたりしました。

言語習得は最初の1年が肝心

22048815 (2)ドイツに駐在して感じたのは、初めの1年が語学習得の決め手となるということです。赴任当初は生活や職場環境に慣れるなど、本当に大変だと思いますが、ここでの語学勉強は報われると思います。言うまでも無く駐在前に勉強するのは非常に役立ちますが、赴任して毎日の必要に迫られて学ぶ言葉は飛躍的に上達するようです。

 

私のドイツでの後任は、赴任と同時に1ヶ月間、業務につく前に、赴任地から遠く離れた地方にあるゲーテインスティテュート(ドイツ語学校)に社費で通いました。日本人のいない地域に住み、通学することで語学のみならずドイツ人と密に接することで、より深く生活、文化、考え方が習得出来、非常に有意義だったようです。

語学について常々感じていること

22538417語学力を語るときに、「聞くことはなんとか出来るが、話すのはまだ難しい」と言う人を多く見かけます。またレベルを指して、「日常会話程度」とか「ビジネス会話可能」などと言って、ビジネス会話が最上級だと位置づけるのが一般的なようです。

 

外国語は、話すより聞く方が遥かに難しい筈です。何故なら、そもそも自分が話したいことは自分で決められて、仮に最適な単語を知らなかったとしても、類似した代替の表現を駆使するなど、自分の意思を相手に伝えることは比較的簡単に出来ます。

 

一方相手が話すことは予想がつきません。更に相手の語学力が高い場合など、我々が日本の外国語教育では教わらない、洗練された表現に出くわすことも少なくありません。「聞くことは出来る」というのは、聞いたことがある単語が幾つか混じっているため理解できたと感じるのだと思います。

 

また、ビジネスの外国語が最も高度だと誤解されがちですが、ビジネスの場合、自分が何を話したいかは勿論、相手の発言も概ね見当がつくため、比較的容易に会話が成り立ちます。しかも、事前に資料などの準備をして臨むことも出来ます。

 

ビジネスという緊張する場で会話が出来ることを指して上級と呼ぶのかも知れませんが、言語だけなら、最も簡単なのがビジネス外語だと言っても過言ではないと思います。

では、外国語において何が最も難しいか。私見ですが、私はコメディーが最も難解だと実感しています。それは、自分達が日常触れている外国語環境を超越した会話が展開されるからです。映画も難しいものの、約2時間程度の尺の中に、比較的整理された形で話が纏められているため、ある程度予想がつくのですが、コメディーは何が飛び出してくるか分かりませんし、設定に関わる、我々が知る由もない文化的な背景に基づく表現が使われたりもします。

絶望的なことを書きましたが、私なりのトレーニング方法をお伝えしたいと思います。そもそも日本語は母音が5つなのに対して英語は12種類以上、音の数では日本語の約70に対して英語は約600と言われています。更に、発音が比較的フラットな日本語に対して、英語は抑揚の違いで、意味が全く異なってしまうことがあります。

 

その結果、実は知っている単語でも、自分が発音出来ない発音で話されると、聞き取れないことが多々あります。知っているのに聞き取れなかったという弊害を減らすため、私は外国のドラマなどを、音声も字幕スーパーも外国語で視聴するようにしています。英語のドラマを、音声も文字も同時に聞き、見ることを繰り返すと、音と実際の言葉の意味の距離が次第に縮まっていきます。語学のハードルを上げるような意見に聞こえるかも知れませんが、継続的に繰返して聞き、使うことにより確実に語学は上達します。

 

言葉は道具ではありますが、より良い道具を手に入れ、それを使いこなせるようになりたいものです。色々振返ってみると、語学に限らず、何事も強い意志を持って工夫を続ければ、多くの困難は乗り越えられると私は信じています。

 

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2106 プロフィール画像|h-tanaka02

著者:田中 秀彦 (たなか・ひでひこ)
株式会社ジェイシーズ  上席執行役員 海外事業展開・戦略アドバイザー
大手精密・光学機器メーカーNikonにおいて、30余年にわたり海外ビジネスに従事する。この間、ドイツ、英国、香港、シンガポール、インド、タイなど、20年以上を海外で過ごし、特にドイツ、英国、インド、タイでは現地法人のマネジングディレクター(社長)を務めた。営業、マーケティング、事業企画といった領域を本職とするも、中国工場の設立や、インド法人をまったくのゼロベースからたった独りで立ち上げるなど、業務領域の垣根を越えた多彩でタフな一面を持つ。2017年6月より株式会社ジェイシーズに参画。豊富な見識と広範なネットワークを活かし、日本企業の海外展開を支援している。

 

株式会社ジェイシーズ  https://j-seeds.jp/

連絡先:contact@j-seeds.jp 

 

 

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