英語の実力がTOEIC L/Rで700点代後半を超えると上位10数パーセントという上級者クラスの仲間入りをします。このレベルは英検準1級から1級に差し掛かるレベルであり、学習書で目にするような英文であれば、文法的にも語彙的にも難なく理解できるはずです。

しかしそうしたスコアを持つ人でもリアルな場面では思うように言葉が通じなかったり、聴き取れなかったり、または意味が分からないなど多くの問題に直面しているのも事実です。初中級レベルだったころはインプットと筋トレ(実際に話す・聴く・書く・読むを実践する)を繰り返せばそれに比例して実力がアップすることが実感できたのに、このレベルになるとなかなか上達している実感が感じられない、という悩みを持つ人は多いものです。

では一体何が問題なのでしょうか?それにはさまざまな複数の原因があり、その組み合わせも人によって異なります。またその処方箋も、学習者がどのレベルにまで行きたいのかによって異なってきます。

伸び悩みの原因は?

上級者

まずざっくり言うと、第1の原因は、脳内の英語回路がまだ十分完成していないことがあります。まだ英語が「知識として学んだ」外国語であり、長年乗りなれた自動車のように、自分の手足の延長線になっていないためです。英語による脳内回路を作るためには、できるだけフル英語の環境で人間相手に会話のやり取りを行うしかありません。簡単に言えば練習不足と言えるでしょう。

第2の原因は入力がまだ足りないことにあります。これを聞くと「え?!もう一万語近く暗記したのにまだ覚えなきゃいけないの?」と思う人もいると思います。しかしこのレベルからの入力は、「さまざまなトピックとそれに関連した語彙、表現、社会的知識」を現実世界の教材を通じて学ぶことです。これは入力不足の問題になります。

第3の原因は異文化面での経験が不十分なことです。英語と日本語ではコミュニケーションのありかたやそこで求められる理想モデルが異なります。例えば日本語の場合には、「なぜ?」と理由を聞かれた時、煩わしいので「まあ、いろいろな理由からだ」と答えても、そこから「じゃあいろいろとは何か?」と迫ってくるような人はあまりいないでしょう。しかし英語ではそうしたやり取りは珍しくありません。そこで突っ込まれてもそつなく返答できる力が求められます。

またわずらわしさを避けるためお茶を濁すなら、「いろいろ」という表現を使って墓穴を掘るより、別のストラテジーを使って返答するほうが効果的かもしれません。このように文化圏が異なれば、会話を運用していくストラテジーが異なる場合もかなりありあるわけです。このように「こんなシチュエーションなら、どう答えるべきか、そしてそのあとどうフォローすべきかを的確に判断できる力」を経験を通じて養っておくことが、異文化間をつなぐコミュニケーションでは非常に重要なスキルとなってきます。

 

伸び悩みを解決するためには

上級者2では具体的にどうすればよいでしょうか?まずは環境を用意する必要があります。できるだけ毎日英語を使う場面を増やすのです。友人を作るのもよいですし、学校に行ったり、英会話ラウンジに行くのもよいでしょう。また外国人の通訳を買って出たり、一緒に旅行などに行くのもよいかもしれません。

そのほか、物事を説明する際に、難しい語をやさしい語彙で言い換えたり(パラフレーズ)、より精緻な表現で言い換えるのも訓練になります。例えば「ロスを埋め合わせる」は口語的にはmake up forという連語で表現できますが、もう少し学者っぽく言うならcompensate forで言い換えることが可能です。

次に入力量の増加です。語彙レベルでは、TOEFLレベルの語彙(これはTOEICレベル語彙とネイティブが読む英語書籍レベル語彙の間をつなぐレイヤーとなります。さらに挑戦したい方はGREテスト用語彙もよいでしょう)、会話用イディオム、連語とコロケーション、英語で話せるトピックと関連表現をできるだけ増やしておくことです。

語彙はケンブリッジ大学出版の”English Vocabulary in Use”(各レベルあり)、連語やコロケーション(どの語彙とどの語彙が一緒に使われる傾向が高いか)を学ぶのであれば泰文堂の『コロケーション徹底演習』(実際には連語練習教材)、コロケーションでは『ケンブリッジ実用コロケーション』 中級編や”English Collocations in Use : Advanced”がよいと思います。

トピックと関連語彙を増やすにはTED、英語雑誌(ニューズウィーク、ナショナルジオグラフィックなど)、英字新聞があります。口語表現やイディオムを学ぶには映画のスクリプトなどがおすすめです。例えばLife is too short to deal with that.(人生そんなことに構っていられるほど長くはない)という表現も教科書には出てこないと思いますが、日常の口語表現としてよく使われます。

異文化的経験は、英語話者とのコンタクト時間と自分の発話時間に比例して自然と深まっていくと思いますが、機会があれば短期間でも留学したりホームステイするのがベストだと思います。しかしそれが不可能な場合は、テレビ番組や映画を使い、登場人物たちのやり取りをネイティブに解説してもらいながら勉強するのもよいと思います。

また変則的な練習法としてはボランティア通訳として知り合いの外国人を英語でガイドするという方法もあります。事前に文化・風俗・地理・歴史・政治・経済などの語彙を事前に入力する必要がある上に、文化的な違いを説明し、質問に答え、かつ自分の考えについても分かりやすい表現することが求められます。思いもよらなかった文化的な違いが体験できる可能性大と言えます。

 

執筆者:鈴木武生 Ph.D.
株式会社アジアユーロ言語研究所代表取締役。会社HP: https://asiaeuro.org

早稲田大学および跡見学園女子大学非常勤講師。(株)日中韓辭典研究所言語学顧問。さくらリンケージインターナショナル社シニアコンサルタント。

商社勤務後,翻訳・通訳者、漢英字典編纂者を経て独立し,アジアユーロ言語研究所を設立。翻訳・通訳業務,多言語辞書編纂,データ処理,検索エンジン開発を行うとともに,大手外資系メーカーのアジア太平洋地区ビジネス開発を支援。また企業向けスキル研修プログラム(英語,中国語,異文化理解など)の開発と実施,ならびにグローバル人材研修・開発のコンサルティングを行う。

「海外経験のない一般的な日本人が、外国語能力を身に付け、外国人と自然なコミュニケーションが図れるようになるためには、一体何をどのように実践したらよいのか、またどうすればそうした学習者を支援できるのだろうか」という思いで設立。企業向け語学研修・異文化研修を中心に、日系・外資を問わずあらゆる業種の企業に対して、学習者の語学力向上をサポート。
東京大学総合文化研究科修了(言語情報科学専攻),言語学博士。研究対象は英中日台の語彙概念意味論、言語類型論、語用論、構文論。またタイヤル語(台湾原住民族語)のフィールドワークを行う。

著書:「異文化理解で変わる ビジネス英会話・チャット 状況・場面115」 (Z会のビジネス英語)

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