今やDX全盛の時代となり、コロナウィルスの影響も後押しとなって、研修もデジタル化・オンライン化が進んでいます。オンライン型研修は、時間や場所を選ばないという大きな利点があります。今日では、大学レベルの教育にすらオンラインが取り入れられています(MOOCなど)。

ではオンライン研修が万能かというとそうは言い切れません。事実学校教育ではまだ対面教育が中心であり、オンラインはその補助物にすぎません。もし企業研修でもすべて対面型からオンラン型に移行できるかというとかならずしもそうはならないでしょう。それには理由があります。

オンライン研修は、知識の学習には非常に利便性が高く、かつ効率的と言えます。しかし実際の「学び」には、知識の吸収以外にも、人的なやりとりを通じた動機づけや確信、モーチベーションのアップ、自分の経験とすり合わせによる知識の内面化などさまざまな重要な側面が含まれます。これは知識の習得というレベルを超えた、体験と呼ばれるものです。

この体験を提供するには対面型研修が圧倒的な力を発揮します。妙な例かもしれませんが、オンラインが結婚式や葬式に向かないのはこうした理由かもしれません。

オンライン英語研修を成功させるには

オンライン英会話では語学学習は「知識の吸収」タイプでしょうか、それとも「体験」タイプなのでしょうか?答えはYes and Noです。純粋にテスト対策的なセミナーであればオンラインでも構いません。しかし長期的な英語力向上プログラムやグローバル人材を育てるような英語スキル研修であれば体験的側面も考慮せざるを得なくなります。 

こうした英語(スキル)研修においてオンライン研修を成功させることができるかどうかは、オンラインに欠けている体験的な学びをどう補うかという点に収斂されると言えます。

それは、(1)慎重なプログラム設計(2)講師と受講生のインタラクションをいかに確保するか、(3)受講生の参加意識度をいかに充実させるか、(4)受講者同士のつながりの確保(4)運営者による管理などです。


(1)慎重なプログラム設計
英語力をアップさせるために長期間(例えば3か月)のプログラムを実施する場合、一見もっとも手っ取り早いと思われる方法は、映像講義を見せて課題をやらせる方法です。しかしこの場合、これだけでは学習者の動機づけが図れず中途脱落者が続出するか、効果が上がらないまま終わります。

ではどうしたらよいでしょうか?それは各学習プログラムの目標と性質を見極めたうえでどのようなプロセスが必要とされるかを定義し、そのなかでどのプロセスをオンラインにまかせ、それ以外の必須プロセスを補っていくかを検討する必要があるでしょう。上記の例で言えばチューターやQ&Aを含むサポートプログラムの充実が必要となります。

(2)講師と受講生のインタラクションをいかに確保するか
オンデマンド型は情報の流れが一方的になるので、その場での受講者による質問が不可能です。リアルタイム型なら質問は可能ですが、講師は受講者の反応を見ながら、受講者にとっさに問いかけを行って興味を引き出すといったテクニックが使いにくくなります。

例えば複数の受講者に意見を言わせたりコメントを引き出す場合、20人を超えるような大きな研修ではPC操作上の制約からも難しいと言えます。その場合、事前にグループ分けを行い、代表者を決め、代表者にグループの発表者を指名させたり、意見集約をさせるといった手法をプログラム作成時に考慮・策定しておく必要があります。

(3)受講生の参加意識度をいかに充実させるか
オンライン研修は、対面ではないのでどうしても受講者の参加意識度が低くなる傾向があります。その場合、参加する上で受講者のモーチベーション度合いを確認したり、受講者に対して、なぜその研修に参加する必要があるのかを腑に落ちるまで説明しておく必要があります。またアンケートの活用やサポート面の充実も欠かせません。

(4)受講者同士のつながりの確保
オンライン研修ではややもすると受講者が各自孤立したかたちになりがちです。これを防ぐにはチーム編成を行うのが有効ですが、チームを編成すると、今度はそのチームを機能させるための新たな仕組み(リーダー決め、役割分担、連絡方法の確定など)と管理が必要になります。

(5)運営者による管理
最後に、運営者による管理ですが、受講者の学習状況の進捗管理、連絡体制、質問対応、心理面でのサポートといった領域で、講師や研修業者と役割分担を図りながら、手順策定、受講者への研修効果の最終評価などを効率的に行うプロセスが必要となります。こうした管理作業は研修内容によっては対面型より複雑で労力がさらにかかる可能性があることにも留意しておく必要があります。

 

執筆者:鈴木武生 Ph.D.
株式会社アジアユーロ言語研究所代表取締役。会社HP: https://asiaeuro.org

早稲田大学および跡見学園女子大学非常勤講師。(株)日中韓辭典研究所言語学顧問。さくらリンケージインターナショナル社シニアコンサルタント。

商社勤務後,翻訳・通訳者、漢英字典編纂者を経て独立し,アジアユーロ言語研究所を設立。翻訳・通訳業務,多言語辞書編纂,データ処理,検索エンジン開発を行うとともに,大手外資系メーカーのアジア太平洋地区ビジネス開発を支援。また企業向けスキル研修プログラム(英語,中国語,異文化理解など)の開発と実施,ならびにグローバル人材研修・開発のコンサルティングを行う。

「海外経験のない一般的な日本人が、外国語能力を身に付け、外国人と自然なコミュニケーションが図れるようになるためには、一体何をどのように実践したらよいのか、またどうすればそうした学習者を支援できるのだろうか」という思いで設立。企業向け語学研修・異文化研修を中心に、日系・外資を問わずあらゆる業種の企業に対して、学習者の語学力向上をサポート。
東京大学総合文化研究科修了(言語情報科学専攻),言語学博士。研究対象は英中日台の語彙概念意味論、言語類型論、語用論、構文論。またタイヤル語(台湾原住民族語)のフィールドワークを行う。

著書:「異文化理解で変わる ビジネス英会話・チャット 状況・場面115」 (Z会のビジネス英語)

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