2020年が始まった当初はAIの進化がメディアに大きく取り上げられ、これが今後の業務ばかりでなく企業研修などにも幅広く応用されるだろうという話題が新聞や雑誌、ネット記事をにぎわした。

しかし、その後の新型コロナウィルスの感染拡大により、企業の企業研修や新卒採用は多大な影響を受け、さらには本業のオペレーションすらままならない状況に陥った。ウィルスの感染拡大を防止するために、テレワークを導入する企業が増え、公教育や大学でもオンラインによる授業が一般化している。これを可能にしたのが情報通信技術-ICT(Information and Communication Technology)で、企業や教育機関は非接触型の双方向型コミュニケーションが手軽に利用できるようになった。現在、多くのメディアやSNSではICTを用いてどのような効果的学習方法が可能かという議論が高まっており、その可能性に注目が集まっている。

しかしここで一つ注意しなければならないことがある。ICTはあくまでも情報伝達の技術であり、育成のターゲットとなる能力タイプや、その教育の方向性、教えるコンテンツ、またトレーニングの方法論とはあまり関係がない。平たく言えば、ハンバーグを食べるのに、ナイフとフォークの代わりに箸を使うというのとあまり変わらないかもしれない(もちろん場所と時間を問わないという点ではきわめて有利だが)。むしろ、これからビジネスパーソンに求められる①どのような能力を、②どのような方向性を持って、③どの程度まで、④どんなコンテンツを使って、⑤どんな方法で鍛えていくのか-という問いが重要になる。ICTはこの⑤に関わる方法論の問題に過ぎない。

 

①能力タイプ

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英語研修で言うならば、まずまちがいなくスピーキング能力をいかに向上させるか、ということが現在ホットなトレンドである。もちろんTOEIC L/Rの研修の実施も質・規模ともに充実はしてきているが、その位置づけは多くの企業でほぼ固まってきているようである。

TOEIC L/Rはスコアにより大まかに三つの位置づけに分かれる。

 

・ステージA:英語やり直しの入り口(200400点台)

・ステージB:基礎力固め(500  600点台)

・ステージC:上級へのブレイクスルー(700800点台)

 

しかしこれはあくまでもテストスコア上の話であり、実際にオフィス現場で英語を使って、特にスピーキングを介してコミュニケーションする力は保証していない。企業においてTOEIC S/Wのニーズが徐々にだが着実に高まりつつあるのはこうした事情が背景にある。

 

②方向性と③求められる程度

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特にステージABにおいてテストスコアは上がったとしても、これがかならず業務のスキルに結び付くとは言えず、実際の会議での発言やプレゼンにおけるQ&Aなると、このステージの人たちには現状としてハードルが高すぎるといえよう。

そこでその次に来る研修ステップとして、オフィス現場で最低限求められるスピーキング力を身に付けるための研修が求められるようになっている。英語によるzoom会議で外国人から質問を受けた場合に、最低限の情報を返せるといったレベルのスピーキング力である。

ステージCの人は、それなりのスピーキング力を持っている。しかし彼らに求められるのは、現地法人社員のマネジャーとしてスムーズなコミュニケーションを図ったり、効果的な多文化チームビルディングを行うのに必要なスピーキング力である。単にTOEIC L/R760点をとったとしても、現実の業務ではまだ困難が多い。ここで必要となるのは、異文化理解とチームビルディングという二つのスキルと連動した形でのスピーキング力である。このレベルになると幅広い場面での力が求められ、下は会議での発信、さらには交渉や人間関係作り、また現地法人/工場の運営、管理、指導まで、高い能力が求められる。

 

④コンテンツと⑤方法論

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コンテンツと方法論は非常に密接な関係にある。というのもコンテンツのタイプによって教えるための方法論が限定されるからである。弓道の技術をzoomや本では体得しにくいのと同じである。特に体と五感に基づく経験技術の伝授はICTと相性があまりよくない。

ICTはステージAB前半の人のスピーキング練習には有効に使える。聴き取り向上、基本的なレスポンスパターンの習得を含む基本会話練習であればzoomによるオンライン会話練習が有効である。しかしそれができるようになるためにはTOEIC L/R400点代後半から500点程度の文法知識は必要だろう。

問題はステージB後半とステージCである。このレベルになると、語彙、表現、イディオム、連語など多くの知識を瞬間的、かつ効果的に使いわけ、かつ主体的に話の流れを構築しながら、ソリューションの提案やネゴを行うスピーキング力が求められる。日本の英語研修では、特にこのレベルにおいて、コミュニケーション能力向上を意図し、日本人向けに特化されたスピーキング練習用コンテンツがまだ充実していない。コンテンツが確立されていないため、それに引きずられるように、このレベルではせっかくのICTの優位性を引き出だすようなスピーキングプログラムパッケージがまだ十分には開発されていない。今後はこうしたコンテンツの充実が待たれるところである。

 

執筆者:鈴木武生 Ph.D.
株式会社アジアユーロ言語研究所代表取締役。会社HP: https://asiaeuro.org

早稲田大学および跡見学園女子大学非常勤講師。(株)日中韓辭典研究所言語学顧問。さくらリンケージインターナショナル社シニアコンサルタント。

商社勤務後,翻訳・通訳者、漢英字典編纂者を経て独立し,アジアユーロ言語研究所を設立。翻訳・通訳業務,多言語辞書編纂,データ処理,検索エンジン開発を行うとともに,大手外資系メーカーのアジア太平洋地区ビジネス開発を支援。また企業向けスキル研修プログラム(英語,中国語,異文化理解など)の開発と実施,ならびにグローバル人材研修・開発のコンサルティングを行う。

「海外経験のない一般的な日本人が、外国語能力を身に付け、外国人と自然なコミュニケーションが図れるようになるためには、一体何をどのように実践したらよいのか、またどうすればそうした学習者を支援できるのだろうか」という思いで設立。企業向け語学研修・異文化研修を中心に、日系・外資を問わずあらゆる業種の企業に対して、学習者の語学力向上をサポート。
東京大学総合文化研究科修了(言語情報科学専攻),言語学博士。研究対象は英中日台の語彙概念意味論、言語類型論、語用論、構文論。またタイヤル語(台湾原住民族語)のフィールドワークを行う。

著書:「異文化理解で変わる ビジネス英会話・チャット 状況・場面115」 (Z会のビジネス英語)

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