英語への苦手意識が強い方はたくさんいらっしゃいます。私自身、高校2年生の時に英検4級に不合格というレベルでしたから、英語への強い苦手意識がありました。しかし、苦手意識というのは、客観的な指標があるわけではなく、あくまでも「感情」です。
ちなみに、英語ができないことから強い苦手意識を持っている方はたくさんいらっしゃいますが、英語ができなくても英語に対する苦手意識を持っていない方も少なくありません。
苦手は憧れの裏返し
なぜ英語への苦手意識があるかといえば、「できない」「わからない」という背景に「できるようになりたい」という強い思いがあるからです。まさに、「苦手は憧れの裏返し」なのです。そのギャップにより、自己効力感が下がってしまうことで、「苦手意識」へとつながっているのです。
しかし、実際にはその事実に気づいていないことがほとんどです。そのため、苦手意識があるまま取り組むと、「できないこと」に意識がいってしまい、「できない自分」にフォーカスしてしまいがちです。
そこで大切なことは、苦手という感情を生み出すきっかけとなっている「自己効力感」を高めることです。自己効力感を高めるためには、まず「できる」という事実を知ることです。
自己効力感の高め方
「できる」という体験が自己効力感につながるため、「やればできる」の前に「すでにできる」を感じることが大切です。「英語力ゼロなので・・・」と嘆く方は多いのですが、日本で生活しているだけでもある程度の英語力はついています。たとえば、感謝と謝罪を英語で表現できますし、1から100までを英語で数えることも難しくないでしょう。さらに、「今この瞬間に『目に見えるもの』を英語で言ってみてください」と言われても、全部ではないにせよ、机やイス、ペンや服、窓や時計、床、写真、カバン、スマホなど、スラスラと英語で言えるものも多いはずです。
ちなみに、同じことをスペイン語やフランス語、中国語や韓国語でやろうとしても、そもそも知らないものがほとんどでしょう。「ごめんなさい、私は知りません。」や「私は英語を話せません。」といった内容を流暢な英語で「Sorry, I don’t know.」や「I can’t speak English.」と話すこともできます。
まずは「できること」を知ることが、自己効力感につながりますし、どこからスタートすればよいかを明確にすることができるのです。
現在地をスタート地点にする
英語だからといって、特殊な上達法が存在するわけではありません。全てにおいて、上達のプロセスは共通しています。上達とは、「すでにある知識やスキルを活用して、未知のものや新しいスキルを身につけること」です。すでにある知識やスキルを活用するためにも、現在のレベルに合ったものから始めることが大切です。「やる気」や「取り組む内容のレベルの高さ」によって上達が決まるわけではありません。「カーナビ」を使う際にも、まずは現在地を基準として目的地までの道順を導き出すように、学習においても「現在地」を基準とすること、つまり「できること」がスタート地点となります。
私が英検4級に不合格になった数か月後、突然英語に対してのやる気が芽生えました。その時に、英検2級の教材を手にして学習を始めました。もちろん、まったく理解できずに教材を閉じることになりました。英検4級に受からないレベルの知識やスキルしかなかった私にとって、英検2級の内容は「ほぼ全て未知のもの」でした。2級レベルを身につけるために活用すべき「すでにある知識やスキル」は、少なくとも英検準2級レベルものでしょう。当時「現在地」が英検4級不合格レベルだった私は、いくらやる気があっても上達できませんでした。スタート地点が「できないこと」だったのです。その結果、「自己効力感」は高まることなく、「やっぱり苦手だ」という意識だけを強める結果となりました。社会人になってから英語学習をやり直す方も、このような状況に陥っている方が多く存在しています。
確実に上達させるためには、すでにある知識やスキルを知り、レベルに合ったところから取り組むことが何よりも大切です。そのうえで、「上達のプロセス」を取り入れることで、確実なレベルアップを図ることができます。
上達のプロセスを活用する
車の運転においても、仕事においても、スポーツや楽器演奏においても、過去に「できない」を「できる」に高めた方法は、共通しているはずです。それは、「『見本』を参考に、『日常的』に取り組み、さらに『反復』すること」です。英語に苦手意識がある方は、英語に対して過敏になっているため、少しでもわからないことがあると「挫折感」を抱きやすくなります。そのため、英語以外の上達のプロセスを振り返ってみるとよいでしょう。
たとえば、カラオケで考えてみます。カラオケの上達とは、「見本の通りに歌えるようになること」で、その状態を目指して練習します。いきなり歌詞カードを暗記することはないでしょうし、1・2回聞いただけで歌えるようになることもありません。サビは比較的早く歌えるようになりますが、歌詞カードを見ながら歌っても音程がずれる箇所も出てくるでしょう。そのズレを修正していくことこそが、カラオケの練習です。まさに、「『見本』を参考に、『日常的』に取り組み、さらに『反復』すること」を実践することで歌えるようになります。英語学習にも似ている部分があります。
まとめ
カラオケでは何度も繰り返して取り組めるのは、体験を通して「繰り返せば歌えるようになること」を知っているからです。この「できる」という自己効力感を持つことで、苦手意識の逆側である「憧れ」に変え、上達を感じながら学習に取り組めるようになります。「苦手意識」を大切に扱ってみてください。
著者:早川 幸治 氏
株式会社ラーニングコネクションズ 代表取締役
SEから英会話講師へ転身。その後、TOEIC対策を中心とした英語セミナー講師として、これまで大手企業からベンチャー企業まで全国約200社での研修を担当してきたほか、大学や高校でも教える。脳や心の仕組みを活用した学習法を提唱し、上達の本質を英語学習に応用している。高校2年で英検4級不合格から英語学習をスタート。苦手意識を克服した後、TOEIC 990点(満点)、英検1級。著書に「TOEICテスト 書き込みドリル」シリーズ(桐原書店)、「TOEICテスト 究極のゼミ Part 3 & 4」(アルク)、「2カ月で攻略!TOEIC L&Rテスト 730点!」(アルク)など50冊以上。雑誌連載のほか、企業における学習コンサルティング、セブ島留学TOEICプログラム監修、日本語プレゼンテーション(伝える技術)研修も担当。2011年5月から毎日英単語メルマガ「ボキャブラリーブースター」を配信中。
早川幸治オフィシャルサイト:https://kojihayakawa.jp/
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