ビジネス英語レッスンを提供する企業など、研修の効果測定に活用している試験の一つに、TOEIC®Speaking & Writing Testsがある。社員が英語をつかってどれだけビジネスタスクができるか測る指標として、TOEIC®Speaking & Writing Testsの活用方法を紹介する。

  1. 目標設定に関する考え方

現在、多くの企業でTOEIC LRテストが導入されており、TOEIC®テストの制作元のETSとテストの運営元であるIIBCが提示するproficiency scale(運用能力指標)を参考に社員に課すスコアの目標値を設定している。TOEIC®LRテストを導入している企業においては、「どんな状況でも適切なコミュニケーションができる素地を備えている」レベルであるレベルB730点を社員に目指してもらいたいと考えることが多いようだ。

SW1-1出典: https://www.iibc-global.org/library/default/toeic/official_data/lr/pdf/proficiency.pdf


しかし、TOEIC®LRテストはあくまでも英語を理解する力のみを測っており、英語を使ってできることは測っていない。英語を使ってどれだけビジネスを円滑にできるかの参考にする場合は、「実技」を伴うTOEIC®SWテストが役立つ。テストの開発元であるETS2008年に調査を行い、作成したLRテストとSWテストの換算表は下記のとおりである。SWのスコアの目標設定をするために参考にするとよい。TOEIC®テストのレベルBである730点を目安にすると、SpeakingWriting130点~150点程度を目標値の目安にするのがふさわしいことがわかる。

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CEFRとはCommon European Framework of Reference for Languagesの略称で、ヨーロッパ言語共通参照枠などと訳される。欧州内の人材流動化にともなって、人材の適正な言語力評価を欧州統一基準で行う目的などから作られた枠組み。

・数字はそれぞれのレベルに対応する最低スコアを示している。

出典:https://www.iibc-global.org/toeic/official_data/toeic_cefr.html

 

  1. 日本人の特性に合わせて目標を微調整する

日本でのTOEIC®SWテストの実施結果を見ると、ライティングテストの平均点のほうがスピーキングテストの平均点よりも高い。例えば、「平均スコア・スコア分布 詳細(2020216日)」のデータではスピーキングテストの平均点が128.9点であるのに対して、ライティングの平均点は142.5点である。

出典: https://www.iibc-global.org/toeic/official_data/sw/data_avelist/sw_20200216.html#anchor01


CEFRの換算表を見るとスピーキングテストの平均点である128.9点はやっとB1レベルに達しているのに対し、ライティングの142.5点はもうすぐB2レベルに到達しそうなレベルである。日本人のスピーキング力とライティング力のバランスが少々悪いことを意味している。業務で英文メールを書くことがあっても、対面では英語を話す機会は少ないビジネスパーソンが多いことを考えると、スピーキング慣れしていない人が多いのは理解できる。

これらの日本での事情を考慮すると「SpeakingWriting130点程度を目安」にするのではなく、「Speaking130点を目安にし、Writing150点を目安にする」と差を付けてもいいかもしれない。どのような目標設定をするかは社内の状況や想定される業務に応じて検討するとよいだろう。なお、IIBCが発表している「海外出張や赴任の基準」においても、120点から160点までの幅がある。

SW3-1出典: https://www.iibc-global.org/toeic/corpo/case/com/expatriate.html

 

  1. 学習法を決定するためのファーストステップ

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学習法を決めるためには、目標地点と現在地を把握することが大切だ。したがって、英語の運用能力を向上したいと考えたら、まずはLRテストとSWテストを両方受験をしてみて、現在地を把握したい。直近のテスト結果を見て、目標に到達するための学習ステップを考える必要がある。


例えば、

Aさんは、TOEIC®LRテストが850点、スピーキングテストが110点

Bさんは、TOEIC®LRテストが600点、スピーキングテストが110点

だったとしよう。

二人とも、スピーキングテストで140点を目指している。この場合、2名に適した学習法は異なる。AさんはTOEIC®LRテストの点数が850点であることから、本来はスピーキングテストで160点くらい取れる知識量があることがETSの換算表からわかる。スピーキング力の伸びしろがかなりあるので、スピーキングに特化したトレーニングをすれば、スピーキング力は伸びるだろう。その一方で、BさんはTOEIC®LRテストが600点の人のスピーキング力をすでに発揮できていることから、英語の知識を増やすこととスピーキングのトレーニングを並行して行う必要がある。

まずは各社員の現在地を把握することから、英語の運用能力を向上するための取り組みを検討すると無駄がない効率良い育成計画を立てることができる。社員の英語力育成に取り組む前に、TOEIC®LRテストに加えて、TOEIC®SWテストを活用し、4技能のバランスを把握することをおすすめする。

 

まとめ

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TOEIC® Speaking & Writing Testsは英語の運用能力を把握するのに有益なテストである。目標値はETSが提示している換算表や業務での英語のニーズに照らし合わせて設定するとよい。また、目標が決まったら、学習法を検討するために、まずは4技能の力を測り、現在のバランスを見ることが重要である。そして、バランスに応じた学習法に沿ったトレーニングを行うことが、英語の運用能力の向上に適している。

 

次回はTOEIC®SWの学習法を紹介します。
「ビジネスで戦力となる英語力を育成するTOEIC®SW学習法」はこちら

※前回の記事「ビジネスで戦力となる英語力を見極める TOEIC®SW試験とは」はこちら

 

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執筆者:江藤 友佳(えとう ゆか)
Y.E.Dインターナショナル合同会社CEO 

クレアモントマッケナ大学卒業後コロンビア大学大学院ティーチャーズカレッジで修士号を取得。英語教授法について大学時代に故ピーター・ドラッカーの授業を受け、組織開発に興味を持ち、PwCコンサルティングに入社。SCM部門の配属からHR部門に異動できず、人材育成に関わることもできる研修業界へ転職を決意。株式会社アルクで教育教務主任として多くの教材作成や企業研修、教員研修を担当した後に、楽天様で英語化プロジェクトのco-leaderとして社員教育に従事。英語教育事業部の立ち上げ支援後に独立し、現在は教材制作の下請けやアドバイザリーサービスを提供している。

著書:『ロジカルに伝わる英語プレゼンテーション』『英語の数字ルールブック』『ビジネス英語リーディングの技術

 

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