TOEIC L&Rにおけるスコア470点は、中学英語修了もしくは高校英語の基礎部分を学習したレベルに相当します。一概には比較できませんが、英検で言えば4級ないし3級弱程度と言えます。感覚としては、文の構造や動詞の活用などがまあまあ分かり、英語という文のなりたちがなんとなく見えてきたかな、といったレベルでしょう。
このレベルでは、ビジネス面での実用的なコミュニケーション能力は期待できず、会話も短い文をゆっくり言ってもらうか、単語単位でのやりとりでようやく理解できるくらいの英語力です。そのため470点を目指す場合、その目標は、あくまで中学レベルないしは高校1年程度の基礎力を身に付けることに焦点があたることになります。
この基礎力には次のような項目があります。
(1) 基本文法
(2) 基本例文(基本構文を含む)約100前後
(3) 基本単語 2000語前後(中学課程で1400語程度、英検3級で2100語)
(4) 聴解力
(5) 長文読解力
このレベルはそれほど語彙数が要求されないため、暗記があまり得意ではない人でも継続的に学ぶ習慣を身に付ければそれほど無理なく達成できます。このレベルにたどり着いた人は、「ああ、なるほど。英語というのはこういう構造をしているのか。社会で使われている英文を見るとまだ分からない単語も多いし、ナチュラルスピードで話されると聴き取りはまだまだ難しいな。ただ何が分かって何が分からないかの区別はできるようになった。大学受験レベルの英文は辞書がなければ分からないが、語彙さえ調べが付けば、ざっくりとどんなことを言いたいのかは分かりそうだ」くらいの実感が持てることでしょう。
基礎文法力はドリル形式の練習帳で繰り返し学ぶ
470点レベルを達成する上でまず重要になるのは、何と言っても基礎文法力です。英語の文法には日本語にない概念が多く、またそれが冒頭から出てくるので日本人学習者の多くはここで戸惑い、英語嫌いになってしまいます。
具体的には、
(1) 名詞の単数・複数、特に不規則型の複数形(子供child---子供たちchildren、牡牛ox---複数の牡牛oxen)
(2) 代名詞の活用形(I---my---me---mine、they---their---them---theirs)
(3) 不規則動詞の活用(be動詞、set---set---set、swim---swam---swum、 break---broke---broken)
(4) 時制(特に、進行形、完了形)と受動態
(5) 形容詞の比較級と最上級(large---larger---largest)
(6) 複雑なスペル(big---bigger、lye---lying、pay---paid)
(7) 自動詞と他動詞
(8) 疑問文の作り方
(9) 文法用語(目的語、補語、前置詞、副詞、一般動詞)
(10) 7文型の理解
(11) その他(関係代名詞、関係副詞、仮定法)
こうした文法項目をしっかり身に付けるには、ゆっくり着実に反復練習していく必要があります。そのため、まず対象となる項目の全体を理解した上で、ドリル形式の練習帳を使って繰り返し学ぶ必要があります。これは筆者の私見ですが、まず中学校文法の復習用教材を用いたのちにTOEIC対策用教材に進むのがよいと思います。ここで定評のある復習用教材を一つ紹介しておきます。下記の本は音声CDも付いており発音を確認しながら学べます。
『中学英語をもう一度ひとつひとつわかりやすく』改訂版 山田 暢彦監修 (学研プラス)
この本が終わったら下記のようなドリルでさらに記憶の定着を図るとよいと思います。
A:『英文法パターンドリル 中学全範囲 (中学英文法パターンドリル)』杉山 一志著(文英堂)
B:『ニューコース問題集 中学英文法 (学研ニューコース問題集) 』(学研プラス)
Aは選択・並べ替え・作文というフローで記憶の定着を図るという形式になっています。後者は問題数が多いのが特徴なので数で勝負という人向きでしょう。
文法を学ぶ場合、どうせ時間を使って勉強するのであれば、単に文字列だけを追っていくのではなく、発音も同時に学んでしまいましょう。それには音読が非常に効果的です。出てきた文はかならずCD音源に合わせて複数回声に出して読むようにしてください。最初は音源の後に真似をして音読し、その後で同時に音読する要領でやってください。このレベルから英語の耳を作っておくことで、のちの段階でさらに難しいレベルのリスニングが出てきても対処できるだけの英語耳を作っておくことができます。のちにTOEIC600点を目指そうとして、その時になって音読を始めても時間がかかってしまします。
継続して学ぶ習慣を身に付ける
どのレベルにおいても当てはまるのですが、一番重要なのは定期的に継続して学ぶという習慣を身に付けることです。語学を学ぶ場合、週末にまとめて4時間勉強するよりも、1日おきでもよいので30分は確実に勉強するというようなやり方が最も効果的です。
これは人間の脳が示す忘却曲線の特性から見ても科学的なアプローチと言われています。ただ一人でやるとどうしてもナマケがちになるので、理想的にはペースメーカーのようなチューターなどに強制的にサポートしてもらうのがよいでしょう。実際しっかりとした結果を出している企業研修ではこうした方法が採用されています。
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執筆者:鈴木武生 Ph.D.
株式会社アジアユーロ言語研究所代表取締役。会社HP: https://asiaeuro.org
早稲田大学および跡見学園女子大学非常勤講師。(株)日中韓辭典研究所言語学顧問。さくらリンケージインターナショナル社シニアコンサルタント。
商社勤務後,翻訳・通訳者、漢英字典編纂者を経て独立し,アジアユーロ言語研究所を設立。翻訳・通訳業務,多言語辞書編纂,データ処理,検索エンジン開発を行うとともに,大手外資系メーカーのアジア太平洋地区ビジネス開発を支援。また企業向けスキル研修プログラム(英語,中国語,異文化理解など)の開発と実施,ならびにグローバル人材研修・開発のコンサルティングを行う。
「海外経験のない一般的な日本人が、外国語能力を身に付け、外国人と自然なコミュニケーションが図れるようになるためには、一体何をどのように実践したらよいのか、またどうすればそうした学習者を支援できるのだろうか」という思いで設立。企業向け語学研修・異文化研修を中心に、日系・外資を問わずあらゆる業種の企業に対して、学習者の語学力向上をサポート。
東京大学総合文化研究科修了(言語情報科学専攻),言語学博士。研究対象は英中日台の語彙概念意味論、言語類型論、語用論、構文論。またタイヤル語(台湾原住民族語)のフィールドワークを行う。
著書:「異文化理解で変わる ビジネス英会話・チャット 状況・場面115」 (Z会)